第14話 スナイパーの必要性


 同じ頃都市国家のH地区のハンター支部の支部長のシンプソンは端末を持ってはあちこちの地区の支部長に連絡をとって応援要請をしているがことごとく断られていた。


「こっちは昨日帰ってきたばかりだ。誰がまた行くと思ってるんだ、他をあたってくれ」


 H地区の両隣のI地区、G地区から始まりその隣のJ地区、F地区と断られたシンプソン。E地区にも断られD地区のツバキに通話をする。


「あらシンプソン、お久しぶり。そちらは大変そうね」


 モニターの向こう側でスーツ姿の美人の支部長のツバキが話しかけてくる。


「ああ、そのことだがこっちのH地区はまだようやく建設工程の半分ちょっとだ。工期が大幅に遅れてる原因はスナイパーがいないからなんだ。そちらのスナイパーを貸してくれないか?」


 ツバキはシンプソンからの通話表示を見た時から彼の話がどういうものなのかわかっていたので、


「貴方もわかるでしょ?1ヶ月のミッションを終えて緊張の糸が切れているハンターにすぐに戦場に行けって指示が出せると思う?それもD地区じゃなくてよその地区によ?」


「ああ、もちろんだ。それを知った上で頼んでいる。そちらのリンドウ1人でいいから派遣してもらえないだろうか」


「無理ね」


 即答するツバキ。


「確かに彼は優秀よ、でもその分扱いが難しいの」


 これは嘘だ。本当はリンドウを休ませてあげたいとう気持ちと通話相手に意地悪する気持ちが半々だ。意地悪というか今まで何も手を打ってこなかった相手に対する嫌がらせと言ってもいいだろう。ツバキは話を続ける。


「スナイパーの重要性はここ数年ずっと私が本部の会議でも言い続けてきたわよね、その時貴方自分で何て言ってきたか覚えているでしょ?スナイパーなんて不要だ。マシンガンを連射した方が効率よく短時間で殲滅できるって。結局貴方のH地区以外の9地区では最低でも1人のスナイパーを養成したわ。そしてそれがこの結果よ。頑張ってるそちらのハンター達には申し訳ないけどこの件では私は協力できないしするつもりもない。他を当たって」


「しかし…」


 そうシンプソンが言いかけたところでツバキは自分から通話をオフにした。そして再びリンドウの端末を呼び出す。


「何度もどうした? 悪いが今日や明日は3層のマンションに行く元気はないぜ」


「それは残念ね。でも通話したのは別件なの」


「別件?」


「そう」


 そう言ってH地区の現状とあちらの支部長との話の内容をリンドウに伝え、


「そう言うことだからひょっとしたらH支部の支部長のシンプソンからリンドウに直接連絡があるかもしれないと思ってね、先に教えておこうと思って連絡したの」


「なるほど。H地区の支部長ってのは知らないが、ツバキの言う通りだ。そんなクソッタレ野郎に協力する義理はないな」


「でしょ?だから適当に断ってくれてもいいから。ミッション以外の扱いになるから断っても全く問題ないわよ」


「わかった」


 通話を切るとリンドウは同じスナイパーのサクラとマリーに通信文を送る。今はしっかり休め。他の地区から直接スナイパーの応援要請が来たとしてもそれは絶対に受けるな。死にたくないのなら全て断れ。と。


 すぐに2人から返事が来た。2人とも絶対に断ります。という文面に続いて今リンドウの行きつけの武器屋さんで身体保護スーツを注文したところですと。どうやら一緒にいるらしい。


 メッセージを見て安心したリンドウ。そうして寝室に移動すると今度こそベッドで本格的に疲れを取ることにした。


 結局H地区は他の全ての地区のどこからもスナイパーの応援を得られないままに予定より半月以上遅れてなんとか前線基地を完成させた。



 その後の本部での今回のミッションの総括の会議の席上、シンプソンはH地区の支部長を解任されることとなる。これはスナイパーがいなかったのはもちろんだが、ミッション終了後に数少ないH地区のAランクのハンター全員が支部に他地区への移動する旨の連絡をしてきたからだ。


 慌てた本部はすぐにH地区のAランクのハンター達を集めて事情を聞いたところ支部長に対する不満が爆発。本部は支部長を替える、スナイパーを育成するという条件でなんとか他地区への移動を取りやめさせた。それと向こう1年間はAランクハンターへの報酬をあげるということもしたらしい。あくまでこれは噂だが…。


 早々に都市に戻ってきていたD地区のハンター達はしばしの休暇を終えるとそれぞれ活動を開始していた。


 ハンターは機械獣を倒して生活の糧を稼ぐ家業だ。ミッションがあればそれに参加し、ミッションが無い場合には自分たちで荒野に飛び出して機械獣を倒して支部から報酬をもらう。まぁ、エリンとルリの様に2層に金蔓を持っていれば外に出なくても十分以上の稼ぎを得ることは可能だが、普通のハンターならミッションがない時は荒野を走り回って目に入る機械獣を片っ端から倒して日銭を稼ぐことができる。


 一方、スナイパーは機動性が落ちるのでなかなか日銭を稼ぐ手段がない。そう言うわけでリンドウは今日はサクラとマリーを連れてサムの武器屋に出向いていた。彼女らに狙撃銃を教えて日銭を稼ぐ手段を与えるためだ。待ち合わせに来た2人はともに迷彩服の下に黒の身体保護スーツを着ている。


「メッシュにしなかったんだな」


「悩んだんだけどね」


「悩んだのかよ」


 そんな会話をしながら店に入ると親父のサムに


「狙撃銃を教えてやろうと思ってな。いいのはあるかい?」


「狙撃銃か。お前さんが使っているはでかくて無理だろうから少し軽めのやつかな」


 そう言って持ってきた狙撃銃はM56B5。リンドウのよりは小さいだけで他の機能は同じだ。全長はリンドウの130センチよりは短くて100センチほどだ。2人とも身長が160センチちょっとあるので手に持っても大きすぎるという感じはしない。銃を手に取っているサクラとマリーにサムが、


「これはリンドウのより小さいだけで性能は同じだ。しかも軽いぞ。最大射程距離は1,400メートルとなっているが実戦だと1,200ちょっとだろう。単発、セミオート、の切り替えができる。セミオートで3点バーストになるのも同じだ。弾丸を無駄にしないお財布に優しい銃さ。それでいて破壊力はそれなりにある。大型にも十分通用する狙撃銃の中のベストセラー品さ」


「お前さん達に狙撃銃を勧めるのはロングレンジライフルの扱いと似ていてそれでいてライフルよりは持ちやすくて機動性が高いからだ」


「装備についてはリンドウを信用してるからおまかせだよ」


「そうそう。リンドウが勧めてくれるのを買うつもりだったの」


 マリーもサクラもリンドウに心酔している様だ


 結局その銃を買い、弾丸を買った2人とリンドウはそのままハンター支部の地下の射撃場に入って0補正を行ってから試し打ちを始める。


 彼女らの銃にも銃身にバイポッドがついていて銃を固定して打つこともできる。リンドウのより軽い分立って銃を構えて打つこともできる。


 新しい銃で立射、膝射、伏射のそれぞれの格好で訓練する3人。伏射ではバイポッドを使わずに両手でしっかり持ったまま撃つ訓練をさせる。


「どの射撃姿勢でも200メートルならフルオートの3連発全てを100%中心点に命中させるんだ。機械獣の弱点は頭だ、しっかり狙うんだ」


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