第138話 仲間

「長いミッションだったんだな、お疲れ」


 ヤナギがグラスを持ち上げると全員で乾杯をする。ここはシモンズとローズの酒場だ。リンドウらが帰ってきたのを知ったヤナギが中心となって店を貸切にしてAランクのハンターで慰労会をやろうと言うと全員が集まってきた。

 

 シモンズとローズが用意した料理と酒を飲みながらお互いに最近の情報を交換しあう。荒野には相変わらず背中に2丁のマシンガンを背負った機械獣が出ているがヤナギらのチームで事前に処理して大きな問題にはなっていない。


「不在の間は迷惑をかけた。来週からは俺たちのチームも参加するから従来通り週一で交互に視察することになる」


「ツバキからその辺りの事情は聞いているよ。正直この巡回ミッションは結構金がいいからリンドウがいない間、誰からも不平は出なかったんだよ」


 ヤナギが言うとマリーも


「スナイパーには美味しい的よね」


 そうそうとサクラも頷いている。リンドウは2人を見て悪戯っぽい目で


「じゃあお前さん達、俺の代わりに毎週出てくれるか?」


「それは嫌だよ、リンドウも仕事してよ」


「そうそう、何サボろうとしてるのよ」


 マリーとサクラに突っ込まれて場に笑が起こる。そして笑いがおさまると


「マシンガン獣も今の所は進化していない。最近ではBランクの連中の多くも銃を新しいのに変えている様だ」


 ヤナギの言葉にそりゃよかったと声を出す他のメンバー。ミッションに参加していた4人は機械獣が進化していない理由を知っているがそれを口にする様なことはしない。


「リンドウのTVでの発言の影響がでかいぜ。皆慎重になってきた。おかげで荒野での生存率も上がってるそうだ」


 ジョッキに入っていたビールを飲み干したスティーブがいい、続けて


「俺も新しい銃に変えて戦闘スタイルが変わったよ」


「あの大きいマシンガンを使ってないの?」


 スティーブはルリを向いて首を振り、


「いや、使い分けてる。今まではでかいのだけだったけどな。このミッションならマシンガンよりも新しい銃の方がずっといい」


 従来の乱射タイプのハンターは皆新しい銃に変更してそれをすっかり自分のものにしている。武器の進化に合わせて戦闘スタイルを柔軟に変更するのも長生きの秘訣だ。


「そうそう、守備隊がまた船で出て行った」


「相変わらずヤナギは情報通ね」


 とルリが冷やかす。


「それで何しに行ったんだ?」


 スティーブがヤナギの顔を見るが、


「そこまでは分からない。ただ船には装甲車を積んでたって話だからどっか探索に行ったんじゃないのか」


「守備隊も仕事してるじゃないか」


 ランディの言葉に最近あいつらやる気になってるよなという話しになる。


「俺達は荒野で機械獣を倒すのが仕事だ、お互い分業でいいんじゃないの?」


 全てを知っているリンドウら4人だがたとえAランクの仲間うちでも言ってはいけないことは言わない。これはリンドウ以外のAランク全員に共通することだ。ヤナギもおそらくもっと詳しい事情を知っているんだろうが敢えて情報の上っ面だけ言ってるんだとリンドウは思っている。


「そうだよな。ところで武器メーカーが爆弾を装着するドローンを開発中だってことだが聞いたところだとこのアイデアはリンドウが出したんだって?」


 聞いてきたヤナギを見てそうだと頷き、


「俺が支部長のツバキに話をした。いつまでも今のやり方じゃあ大規模襲撃にいつかはやられるだろう。機械獣も進化するしな。だから遠距離で倒せる様にドローンに爆弾を積んで攻撃する武器は必要だと提言した」


 リンドウの言葉に頷く者とびっくりする者にわかれた。サクラとマリーはびっくりした組みで、


「また大規模な襲撃があるということ?」


「そりゃそうだろう。ツバキにも言ったが機械獣はこの都市国家を滅亡させるために次から次に機械獣を繰り出してくる。そのうちに進化して長距離砲を持つ機械獣が出ないとも限らない。だからこちらも砲台以外に遠距離攻撃の手段を持つべきだって言ったのさ。時期は別にして機械獣はまた襲ってくるぞ」


「リンドウの言う通りだ。俺もまたくると思う。こっちも成長しないといつかはやられちまう」


 ヤナギがサクラとマリーに言うと頷いた2人。まぁそういうドローン爆弾を使って攻撃するのは守備隊の仕事だ。俺達ハンターは基本的にやり方は変わらないだろうとヤナギが続けていうとそうなるわなと皆が同意する。


「ところでエリンとルリ、迷彩服変えた?」


 サクラが聞いてきた。


「もう、気がつくのが遅いよ」


 ルリが言いながら身体保護スーツが迷彩服の内側に最初から縫い込まれているからこっちに変えたのよと言う。なるほどそれでズボンになったんだなと他のメンバーも納得する。


「リンドウに教えてもらったんだけどさ、結構軽くて動きやすいよ」


「それに内側の保護スーツの生地もしっかりしててさ、廃墟や瓦礫の上で腹這いになっても痛くないの」


 ルリとエリンがそう言ってからこのスーツはリンドウから教えてもらったと聞いてヤナギがサムの武器屋か?と聞いてそうだと答えると他のメンバーが皆それにしようという話になる。トップランカーのリンドウの装備や防具は他のAランクのメンバーにとっても大いに参考になるからだ。


 リンドウが武器はもちろん、装備系にも金を惜しまず良いものを使うというのはD地区のハンター内では有名な話で、リンドウが使っているものに間違いはないと他のAランクハンターは思っている。そしてAランクのハンターというか優秀なハンターは武器だけじゃなく防具や装備になどにも惜しげもなく金をかける。それが自分の命を守る術になると知っているからだ。


 そしてリンドウは知らないがリンドウが使っているからという理由で装備や武器を見直すハンターはD地区のみならず既に全地区に広まっていたのだ。


 酒場での飲み会が終わって解散となりマンションに向かって歩いている道すがら、同じ方向に歩いているルリとエリンの3人でさっきまでいた酒場での話しをする。


「俺達がいない間他の4人は負担をかけたからな、D地区に戻ってきたからしっかりと仕事しないとな」


「そうね でも信頼できる仲間がいるっていいよね」


「その通りだ。ここD地区のAランクハンターの奴らは皆最高さ」


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