第139話 リンドウの読み

 武器メーカーから爆弾を搭載するドローンの試作品ができたと政府に連絡があり、政府の声かけで都市国家防衛隊、情報分析本部、そしてハンター本部とで打ち合わせがもたれた。その席上メーカー側から新しいドローンについての説明、プレゼンが行われた。


 それによるとドローンは従来よりも2回り程大きくなり5kgまでの爆弾を1つ搭載可能で爆弾搭載時の飛行時間は2時間。爆弾無しだと3時間になる。従い普通の偵察用としても今までのドローンより長時間活動できる様になった。


 そして爆弾についてはドローン専用の爆弾を開発、ドローンに吊るして上から落として爆発させる単純な構造にして威力を高めるために中に限界まで火薬を詰め込んである。


 情報本部がリンドウらが撮影した山の裏の工場を撮影した画像から分析し、あの工場を完全に破壊するには5kgの爆弾を20発は落とす必要があるという結論になったので今回ここでお披露目したドローンと爆弾が承認されれば直ちに生産に入るという。


「飛行速度は5kgの爆弾を積んで最大で時速20kmまで出せます。従い目標から20km離れた地点からの攻撃が可能となります。帰還時は爆弾がありませんので軽くなっていますのでもう少しスピード及び航続距離が伸びるでしょう」


 その説明を聞いて声を上げる関係者


「この前の撮影地点が15km程だったか。現地でしばらく滞空しても余裕があるな」


 その場でゴーサインが出てメーカーはドローンと爆弾を正式に製造することになった。メーカーの担当者が会議室から出たあとに残ったメンバーは話し合いを続け、今回のドローン爆撃は都市国家防衛隊が行うこととなった。


 ハンター本部はもとよりこのミッションに参加する意思はなく都市国家防衛隊が遂行することはすんなりと決まる。


 都市国家防衛本部は直ちにドローンの操作をする兵員20名の選定にはいり、最終的には装甲車3台30名の人数で上陸することにする。



 都市国家防衛隊の部隊が山の裏の工場の破壊任務に出向くことはハンター本部経由で各支部に連絡がきた。D地区の支部長のツバキは本部の了解を取ってからこの件をリンドウ、エリン、ルリ、そしてランディに報告することにした。彼らの情報で国家としてのミッションがスタートしたという点から彼らには知る権利があると判断したためだ。


「なるほど。空からドローンで爆弾をばら撒くのか、悪くない作戦じゃないか」


 ハンター支部の会議室でツバキの説明を聞いている4人。説明が終わるとまずランディが自分の意見を述べた。


「いいんじゃないの」

 

 ルリが言うとエリンもうんうんと頷く。


「俺もその作戦は悪くないと思う」


 最後にリンドウが言う。全員の意見を聞いたツバキ。


「この作戦が成功して山の裏の工場が完全に破壊されたとしたら機械獣の動きはどうなると思う?」


 と今度はハンター達にモロに直結してくる質問をしてくる。


「あの先端工場は理由があって破壊できない。となると機械獣はこれからもあの工場で生産されるだろうけど進化は止まるんじゃないの?」


 ルリが言うと、ランディやエリンもそうなると思うとルリの意見に同意する。リンドウは?という目でツバキがリンドウに視線を送ってきた。


「当面は3人が言った通り進化は止まるだろう。ただ皆が思っているほど長い間進化が止まるとは簡単に思えない」


 そう言ってから皆が言葉を発する前に言葉を続ける。


「今回破壊する工業団地の北側にあたる場所にある”何か”。それを知るまでは安心できない。山頂にあったアンテナの1つが北を向いていたのが気になって仕方がないんだよ」


 電波塔のあった山を中心にして船で上陸する地点が南地点、先端工業団地があるのが東地点、そして今回ドローンで破壊しようとしている工場が西地点。北地点だけはまだクリアになっていない。


「でもさリンドウ、仮に山の北に工場があったとしても都市国家からは随分と離れてない?」


 エリンが今のリンドウの言葉に対して自分の意見を述べる。その言葉に続けてランディも


「エリンが言う通りここから山の北となると相当離れているぜ」


 2人の言い分を黙って聞いているリンドウ。


「まだ何か言いたそうじゃない」


 ツバキはリンドウの表情や口調を聞いて彼が何か思っているところがあると気がついた。横を見るとエリンとルリもツバキと同じ様な表情だ。


「リンドウ、言ってすっきりしたら?」


 とルリがけしかけてくる。何度も身体を合わせると俺が何を考えているのかがわかってくるのかよと思いながら、


「山の北側から都市国家に来られるルートがあるかどうかの調査。これは西の工場の破壊とは別でできるだけ早く動いた方が良いと思っている」


「でも船はないんだぜ。それに西の工場を破壊しないと北に行けないんじゃないのか?」


「ランディそれは違う。俺は北からこの都市国家に来るルートの確認と言った。つまり逆にここ都市国家から北にある工場に向かってもルートの確認はできるってことだよ」


 全員があっという表情になる。もちろんツバキもだ。


「この都市国家から車で出て、巨大廃墟を大きく迂回して北を目指せばいい。ここからだと方角的には北というか北西になるのか。いずれにしても山の場所や東、西の工場の場所もわかっている。北側だけ地図が空白だ。それを埋めるんだ。もし北に行くルートがないと確定できたら皆が言う意見に同意する。機械獣のこれ以上の進化は止まるだろう」


「北地点までの距離や荒野の状況、そして機械獣の生息状況などがわからないから相当きついミッションになるわね」


 リンドウの言葉を聞いて考えていたエリンが言うとその通りと言い、


「車の燃料が持つかどうか、もちろん機械獣の危険も排除できない。それなりの人数を派遣しなければならないだろう。装甲車2、3台でやれるミッションじゃないな。ひょっとしたらまだ俺達が見つけてない工場があるかもしれないしな」


 リンドウは続けて、 


「それでこの探索を行って山の北側の状況がクリアになったら都市国家から約1,000〜1,500Kmの範囲の状況が完全に掴める。そうなるとこちらの対策もかなり楽になるだろうな」


 ツバキはリンドウの先を読む力に内心で舌を巻いていた。今までも常に先を読んでいたが今回も誰も気づかない着眼点をする。柔軟な思考で物事を多角的に見て判断しようとしている。超一流のハンターどころのレベルじゃないと思っていた。


「リンドウ、今の話を本部に上げてもいい?」


「その判断はツバキに任せる。やるとしたらしっかりと準備しないといけないぜ。人員の選定のみならず移動する車も武器も特注品を作るくらいでないとな。生半可なミッションにはならないだろう」


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