第10話 前線基地建設ミッション その2


 待ちの状態は集中力が欠如しやすい。最初の頃は気が張っているので大丈夫だが何もない状態が続くと無意識のうちに集中力が下がっていく。リンドウは何度も経験しているので気持ちの持ち方に慣れているが、隣の2人を見ると休むはずのマリーですら起きている。こればかりは経験しないとわからない感覚だとリンドウは黙っていた。


 初日は何もなく日が暮れた。日が暮れる前に非戦闘員の建設作業者達は車で都市に戻っていき、この拠点に残っているのは管理官らと拠点防衛担当のBランクのハンターそれとAランクのハンター達だけになった。


 夜になるとドローンを飛ばせないので情報の入手方法は都市防衛隊のレーダーによる警戒と夜間でも巡回しているAランクによる監視だけだ。ただ都市防衛隊のレーダーは広範囲すぎて探知している機械獣がどこに向かっているのかはすぐにはわかりにくい。


 端末からは定期的に異常なしという報告が流れてきて夜が明けた。


 2日目、3日目も建設現場には変化はない。少しずつ拠点の形が出来つつあるのをリンドウらはビルの3Fから見ていた。


 1週間が過ぎるとサクラとマリーも見るからにだらけてきている。巡回組みやドローンからの報告にも慣れたのか反応が薄い。


 ちょうどローテーションでサクラとマリーの時間が終わってリンドウが立ち上がった時、突然、


『大型機械獣5体接近中。距離約5,000メートル』


 と端末から声が聞こえてきた。


「急げ!マリーもそのまま戦闘態勢に!」


 リンドウはすぐに戦闘態勢になって用意してあるロングレンジライフルの前に腹這いになるが緊張感が欠けていた2人は一瞬の反応が遅れた。リンドウから怒鳴り声が飛ぶ。


「何やってるんだ!死にたいのか?」


その間にも刻々と端末から報告が入ってくる


『距離4,000メートル、スピードをあげた』


なんとか2人が戦闘態勢になった時には既にリンドウはゴーグルをつけてスコープを覗いていた。その格好で


「3,000メートルで俺が撃つ、5体いるから全部は無理だ。2,000になったら好きに撃て、いいな躊躇するなよ。そして1,500になったら撃ち方をやめろ、あとは巡回組みの担当になる」


 ドローンと連動して流れてくる情報で距離を見ているリンドウ。刻々と距離が表示されそれが近づいてくる。


 3,200メートルとゴーグル上で表示された瞬間、リンドウの銃が火を吹いた。そして数秒後近づいてくる1対の機械獣の身体が爆発して消滅する。驚愕している2人の顔を見ることもなく続いて2発目を撃つとまた1体が爆発。


 距離2,900メートルでさらに1体を処理、2,600メートルで1体を倒したリンドウ。

そこで横を向いて2人を見て


「好きなタイミングで撃て」


 サクラとマリーはスコープを覗く、リンドウも銃のスコープで最後の1体を見ているとマリーが発射、すぐにサクラも発射。


 頭には当たらなかったものの2人の弾丸が機械獣の脚や身体に当たり、機械獣がその動きを遅くした。そのタイミングで2人が再度発射した弾丸で機械獣の身体が弾け飛んだ。


 リンドウはスコープ越しに見ていた。2人の最初の発射は距離2,000メートル、2度目は1,800メートル。移動する相手に初めてで的に当てるとは大したものだと思いながらも、


「これで5体倒したが、距離2,000メートルの1発目で倒せないとダメだな」


 2人はダメ出しを食らって落ち込んでいるがさらにリンドウから追い討ちをかけられる。


「それよりも敵発見からの初動が遅い。集中力が完全に欠如してたぞ。機械獣の中にはもっと足の速いのがいる。一瞬の遅れが数百メートル単位で近づいてきて脅威になる。リラックスしながらも身体はすぐに動かせる様にしておけ」


「はい」


 そう言ってダメ出しをしてから


「とは言え初の実戦でしかも動いている相手に2発共当てたのは見事だったぞ」


と褒めることも忘れない。


 2人はその言葉で表情を和らげるがそれよりも3,000メートル以上もの距離で1発で倒すリンドウの技量を初めてみてびっくりしていた。


 リンドウの噂は聞いていて相当できるハンターだとは思っていたがその技量は2人の想像以上のレベルだ。リンドウは銃の性能だと言うがそうじゃない、次元の違う世界にいるハンター、文字通りTOP3に入る技量の持ち主だったんだと改めて感じていた。


「リンドウ、3,000メートルで動く標的。発弾から着弾までタイムラグがあってその間も敵は移動する。どうやってるの?」


 マリーが聞いてくる。


「ゴーグルの中にあるミニコンピューターがある程度標的の動きを先読みして表示してきているのは知ってるよな?」


 頷く2人。


「それを参考にして、あとは機械獣の種類による動きのパターンを見るんだよ。スコープ越しにに敵を見てこの機械獣は真っ直ぐしか走らないとか、左右に揺れながら走るとか。そうしてパターンとゴーグルの予測とを見てここだとう場所を決めてそこに撃つ」


「…すごい」


「だから射程距離外からでもスコープを見てパターンを見破るんだ。これは慣れだな。機械は人間と違って応用ができない。機械獣の動きのパターンを見切ることができれば難しくはなくなるぞ」


 言葉がでない2人に、


「焦るな。すぐにはできないがずっとできないわけじゃない。癖をつけるんだ」


「「はい」」


「マリーはこのまま休め、俺とサクラのローテーションだ」


 そうしてマリーがテントに向かおうとすると階段を上がってくる音がしてハンター本部の管理官が3Fにやってきた。


「見事な腕前だったな、リンドウ」


「これが仕事だ。それに最後の1体は俺じゃない。こっちの2人さ」


「いずれにしても今の射撃を見て現場はかなり安心している。引き続き頼む」


 そう言ってまた下に降りていった。すると入れ違いの様にルリとエリンが階段を上がってきた。リンドウを見るといきなりルリが


「見たわよ3,200メートルの射撃」


「おいおい、仕事はいいのかよ?」


「今は休憩時間よ。それより他の巡回担当のスティーブとシモンズが言ってたわよ。俺達いらないんじゃないかって」


 スティーブもシモンズもAランクのハンターだ


「ストレス発散できなくて悪かったって言っておいてくれよ」


 リンドウが言うとエリンが、


「それは私たちもよ。都市に戻ったらしっかりと責任取ってもらうから。3,200メートルのスナイプを見た私たちがどう言う気分か、リンドウは分かってるでしょ」


 その後雑談をして2人は下に降りていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る