第9話 前線基地建設ミッション その1
翌日休息と準備に時間を費やしたリンドウ。そうして前線基地建設のミッションの初日がやってきた。端末に指定されている時間にD門にいくと、既にCランクの護衛がついている資材を山積みしたトラックが所狭しと並んでいる。
リンドウはサクラとマリーと合流して自分たちが乗る車に向かって人混みの中を3人で歩いていく。3人とも迷彩服で左の方にAという印字されたタグを張っていてそれをBランク以下のハンター達が見ては道を開けてくれる。
「Aランクって本当に凄いんだって実感してきたわ」
避けてくれる人混みの中を歩きながらマリーが呟くと、こうも違うんだと感嘆の声を上げるサクラ。
「Aランクはそう多くはいない。払われる敬意以上に仕事をしないとな」
そうして3人が自分たちが乗る車に近づくと、その前に停めてある車のボンネットに地図を広げているルリとエリンの姿が見えた。相変わらずの身体のラインを強調している皮のスーツだ。2人がリンドウを見つけると、
「久しぶりね、リンドウ」
「そっちはリンドウのチームの女性なの?」
「ああ、俺達3人は今回はスナイパーだよ。あんた達が巡回する外側の敵を倒す役目だ」
そう言ってサクラとマリーを2人に紹介する。エリンとルリも2人と挨拶をかわし、
「リンドウに教えてもらえるなんてラッキーじゃない」
「ほんとね、彼夜も強いけど仕事の時は本当に頼りになるからよかったわね」
「おいおい、ややこしい事を言うなよ」
「あら、本当のことじゃない」
「そうそう」
エリンとルリが揶揄ってくるのをびっくりして聞いているサクラとマリー。
エリンが2人に近づくと、
「いい?ハンターなんて明日のことを考えたらダメ。今日を生きることに必死になりなさい。それが長生きの秘訣。明日やろうとかそのうちやろうとか思ってるとその日が来る前に人生が終わっちゃうこともあるのよ。今この瞬間を生きること、楽しむことに全力を注いだ方がいいわ」
何が言いたいのか理解した様でサクラもマリーも大きく頷いている。ルリがリンドウに顔を向けて、
「またリンドウの3,000メートル以上のスナイプが見られるのね」
「敵がいればだな。いなかったらそれにこしたことはない」
「3,000メートルのスナイプか、見たらまた濡れてきそう」
エリンが言うと
「ったく色情狂かよ、お前らは」
「リンドウも人のことは言えないわよ。このミッションが終わったらまた2人で相手してね。それまでお互い生きていましょう」
「ああ。生きてりゃ楽しい事がたくさんあるしな」
「そういうこと」
2人と別れて自分たちが乗る車に移動すると黙っていたサクラとマリーが
「リンドウってモテるんだね」
「あの2人ってD地区のみならず他の地区でも有名だよ。女性の私から見てもいい女だと思うもの」
言われたリンドウは前の車で打ち合わせをしているエリンとルリを見ながら、
「腐れ縁ってやつさ。あの2人はあんな風に装ってはいるが実際はAランクでも上位のハンターだ。外見と言葉で騙されるやつは多いけどな。あの2人はできる。一流のハンターさ」
与えられた周波数をセットし、車に自分たちの装備を乗せて準備をしているとD地区の支部長のツバキがやってきた。最初にエリンとルリと話をしたあとでこちらにやってきて、
「リンドウ、よろしく頼むわよ」
「ああ。それにしても弾丸がたっぷりと積まれている、D地区は気前がいいな」
「リンドウに頼ってるからよ。期待してるわよ」
そう言ってからサクラとマリーに顔を向けると、
「もちろん、貴女達にも期待してる。今回はAランクになって初めてのチームでの行動でしょ?リンドウの動きを見て参考にするといいわ」
返事をする2人に軽く手を上げるとツバキは次の車の方に歩いていった。
しばらくするとCランクのハンターが乗った車が門から外に出て、それから資材を積んだトラックやBランクのハンターのトラックなど順次外にでていく。Aランクは友軍扱いなので全体が出てから最後に車でD門を出て目的地に向かって走りだした。
D地区が前線基地にと考えている場所はD2とD3の境界よりD3寄りの場所でそこは比較的大きな廃墟になっていてその残骸を利用して安全を確保しながら周囲に柵を築いて基地を建設していく計画だ。
都市防衛隊の前線部隊は基地が出来てから常駐するということらしく、いまこの建設現場にいるのは非戦闘員である建設業者以外では都市防衛隊とハンター支部から派遣されている現場の管理者達、そして彼らを保護するハンターだけだ。
エリンの運転する車の後ろをついて走り、建設予定地についたリンドウ達。管理者の指定する場所に車を止めると早速後部座席から装備一式を手に持って廃墟の中の仮の司令部に顔を出す。そこにはエリンをはじめとする他のハンターやBランクのハンター達も集まっていた。Cランクのハンターは基本都市とこことの護衛なのでここに止まって打ち合わせに参加することはない。
都市防衛部の管理官が各自の仕事を的確に分担していく。リンドウ達3人はスナイパーという特殊な位置付けなので管理官からは、
「隣の4階建てのビルの3Fか4Fのどちらかで準備の上待機してくれ。探索のドローンのデータを端末にリンクさせるからそれを参考にしてくれ。巡回組はこの拠点から1,000ー1,500メートル以内の範囲を巡回する。それより外側の敵はあんたらの獲物だ。攻撃については任せる。いちいちこちらに発砲の許可を取る必要はない。事後報告でOKだ」
「わかった。じゃあ早速移動するか」
そう言うとリンドウ、サクラ、マリーの3人は仮司令部を出るとコンクリートが剥き出しになっている隣のビルの階段を登っていく。3Fを見てそして4Fを見たリンドウ。両方見たあとで2人に、
「どっちがいいと思った?」
「4F」
「私も4F」
と言う。理由はと聞くと4Fの方が高いから見晴らしが良くて狙い易いという答えだ。リンドウは首を振って、
「このビルだと3Fが正解だ」
どうして?という2人に向かって
「このビルは4F建てだ、そして4Fには天井がほとんどない。雨が降ったらどうなる?それにもっと気温が上がったらどうなる?」
それを言われてあっという2人。
「基本スナイパーは高い場所に陣取るのが正解だが、それだけが判断基準にならない。今言った様に天井がない場所で4Fにいるよりは3メートル低くなっても確実に夜露が凌げる3Fの方が安全だ。そして今日は曇りだから太陽も気にならないがこれが晴天だと太陽の光がスコープに入ることもある。それに太陽の光で銃が反射して万が一敵に見つかるかもしれない。自分の有利な場所が敵から見てどうなるかというのを考えて狙撃の場所を決めるのが大事だ」
一つ一つが経験だ。最初から満点は期待してないよと言うと納得する2人。そうして3人でローテーションを決める。
「24時間を3人だ。基本は2人が任務について1人は休憩する。まず俺とサクラで8時間、次の8時間は俺とマリー、その次の8時間はマリーとサクラ、そして再び俺とサクラ。このローテーションで回してくぞ。もちろん敵を見つけたら3人で対処する」
頷く2人。それからリンドウは待機する注意点を説明していく。
「長時間スコープを覗くのは非常に目が疲れる。管理官も言っていたが今回はドローンを飛ばしてる。普段はドローンの画像を端末から見るんだ。何もない状態の時ならスコープを見るのは2、30分に1回程度で十分だ。ずっと力を入れっぱなしだと長丁場のミッションは身体が持たないからな。じゃあ準備するぞ」
そう言って最初のローテーションのサクラとリンドウがケースから銃を取り出して外に向けてセットしていく。エリンは2人から少し離れた場所に野営用のテントを張っていく。
そうして準備を終えると”待ち”の時間が始まった。
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