第154話 ヘスコ防壁 その2

 マヤの勤める武器メーカーでは社内に特別チームが組まれて極秘で新製品の開発をおこなっていた。マヤも当然そのチームの一員ではあるが今回はチームを組む前にメンバー全員が最大級の守秘義務を守る誓約書にサインさせられている。これほどまでの極秘任務は初めてだ。


 そしてチームが決まると会社のトップから指示されたのは1つだけ、


= 20kgsの核爆弾を装着し、30Km以上の飛行距離を保証するドローンの開発。なおドローンは回収しない、爆弾を装着したまま敵にぶつける =


 というものだった。その説明を聞いたメンバー全員の顔色が変わった。


(確かにこれは極秘任務。流石にリンドウにも言えないわ)



 そうして2つのチームに分けられた。核弾頭を製造するチーム、そしてドローンを製造するチームだ。核弾頭を製造するチームは政府の役人の立ち合いの下で図面から核弾頭を製造する。もちろん図面はコピーを取ることは許されない。


 マヤはドローンチームリーダーの下で主任としてドローンの操作をするコントローラーの開発を担当する。約200メートルの高さから10メートルまで落下してそのまま水平に戻し10メートルx10メートルの入り口から中に飛び込ませて奥で衝突させて爆発させる。


 コントローラーの操作を誤ると大変なことになる。操作性に優れた特注のコントローラーの開発は重要だ。あまりに過敏に反応してもいけないし反応が遅れるのはもっとまずい。ドローン自体の重量が相当重くなる中でいかに操作性を上げるかというのが開発のコンセプトになった。


 そしてドローン本体を設計している部門はコントローラー開発以上に難題が突きつけられていた。


 20Kgsの爆弾をセットして30Km以上の距離を飛ばすとなるとドローンが大型になる。あまりに大きくすると幅10メートルの門を余裕を持って通れない。またバッテーリーをどうするか。充電式だと電池が大きくなり重くなる。ガソリンだと音が大きくなって遠くから敵に探知される。


 20kgsの核弾頭の模型を作りドローンにセットしてみたが飛ばない、飛んでも安定が悪い、音が煩すぎると全く使い物にならない物ばかりだった。


 それでも研究者達は諦めずに検討を続けようやく方向性が見えてきた。


 それは長方形の枠の四隅に羽根がついており、爆弾はそのフレームの中央にセットする。羽根を含めたドローンの幅は5、5メートル、長さは7メートルという巨大ドローンだ。


 その長方形のフレーム部分に蓄電池を埋め込むることにより飛行速度は時速10Kmながら3時間30分の飛行が可能だというシミュレーション結果が出た。何度も検討をして設計に問題がないとわかると製造に入る。その時にはコントローラーの開発も終わっていた。


 そうして研究者達の努力の結果今回の爆撃用のドローンが完成する。その頃には1発の核弾頭の製造も終わっていた。


 都市国家防衛本部の担当者がドローンを操作する兵士らと共に工場にやってきた。彼らはその巨大なドローンにびっくりするがすぐに訓練を開始する。本番の攻撃では核爆弾を積んだドローンの前と後ろに通常のドローンを2機飛ばして前後を飛ぶ通常ドローンが映し出す画像を見ながら本体を操作するという作戦だ。2機ドローンを飛ばすのは万が一、一機が航行不能になった場合のことを考えている。


 メーカーの敷地内での飛行訓練が始まった。




 一方ハンターは北の探索を終えその基地の破壊ミッションが都市国家防衛本部となった時点で荒野の機械獣の処理という本来のハンターの仕事に戻っていた。もっともリンドウは2週間に1度AランクのミッションとしてD5、6地区の探索に出向く以外は都市国家内でジムや自宅で時間を過ごしていた。


 エリンとルリとランディのいつものメンバーでD門を出てD5地区に向かう途中にある守備隊の前線基地の周辺で初めてヘスコ防壁とコンクリートの壁を見た時は


「俺の想像以上だ」


 と感心したリンドウ。コンクリートの壁を1つ設置するとその横にヘスコ防壁を並べていき、そうしてまたコンクリートの壁を設置する。コンクリートとコンクリートの間に土を入れたヘスコ防壁が並んでいる。これが1つのセットだ。そしてそのコンクリートと次に設置してあるコンクリートの間には15メートルほどの隙間を作りそこから車が出入りする様にしていた。


 この車の出入り口は約400メートルごとに設置されており、有事の際にはその出入り口もヘスコ防壁で封鎖するらしい。


「これが完成したら相当堅牢な防御壁になるな」


 左手に設置工事を見ながら奥に進んでいく車の中でリンドウが声を上げる。


「まだ工事が始まったばかりだけどできたらリンドウの言う通り強固な砦になるわね」


「リンドウの案が有効的だと政府が判断したんだろう。いい提案だったぜ」


 運転しながらランディがルリの言葉に続けて言う。


 そうして4人はD6地区の廃墟に装甲車を停めるとそこを拠点にして周辺を徘徊する大型のマシンガン獣の討伐を行う。リンドウとランディのスナイパー組は廃墟の2階、エリンとルリは廃墟の1階にポジションを取る。


「しばらく外に出てないって嘘だろ?」


 3,000メートル以上でマシンガン獣の首を撥ね飛ばしていくリンドウのスナイプを見ていたランディ。


「本当さ。支部の地下の射撃訓練場で200メートルで撃ってたくらいさ」


「腕が鈍るってことはないのかよ」


「ランディ、リンドウは特別だって知ってるでしょ?」


 インターコムを通じてルリの声が聞こえてきた。エリンも続けて


「ランディ今更何言ってるのよ」


「いや、そうなんだけどよ」


 マシンガン獣2体、小型4体の群れを殲滅してランディが銃から顔を上げると隣のリンドウを見る。そして


「やっぱりリンドウは別格だぜ。そのロングレンジライフルが完全に身体の一部になってるな」


 それを聞いたリンドウがニヤリとする。


 ルリが2階で見張りをしている中で3人で夕食を取りながらの話題は北の基地のことだ。


「電波塔が破壊された時点でAIが山の基地での機械獣の生産量を増やしたのか、それとも丁度新らしい生産ラインがあそこに完成したのか。いずれにしても1つ工場を潰しても安心できない状況が続いてるよな」


 リンドウの発言に頷く他のメンバー。


「次の大規模襲撃までに防御壁が間に合うといいけど」


「そうだな」


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