第156話 核攻撃 その1
リンドウやヤナギの考えとは裏腹にその頃都市国家防衛隊の特殊部隊は訓練を終えて北地区の山の中にある工場に向かう準備をしていた。最大級の極秘ミッションであることから守備隊は一度に出撃せずに少しずつ小人数に分かれて都市国家を出ては前線基地に向かい、そこで部隊を編成する。
当初は海からの移動も検討されたが破壊した西の工場から北の山の中の工場までのルートの安全が確認できないために守備隊はハンターと同じく陸路で北に向かうことにする。
ハンター達に見られることもなく集合した部隊は護衛の装甲車4台に囲まれて燃料車と核爆弾を積んだドローンを乗せている大型の輸送車の一群は前線基地を真夜中に出発した。これもハンターに見られない様にする為だ。
そしてハンターに見せないのは移動だけではなくてその兵士の格好もだった。全員が対放射能の防護服を着ているのだ。頭の部分以外は白の防護服を戦闘服の上から着込んでいる。
前線基地を出発した部隊は荒野にある廃墟にも留まらず、ひたすた大きく東回りで北を目指していく。夜とは言え荒野には機械獣が徘徊しており、守備隊を見つけては襲ってきたが護衛の装甲車の部屋に設置したマシンガンがそれらを一掃しながら進んでいった。
そうしてハンターに見つかることなく特殊部隊は巨大廃墟を遠くに臨む場所にある廃墟に着き、そこで都市国家を出て初めての休憩をとることにした。
翌日再び進軍する守備隊の特殊部隊。既にハンターの活動範囲の外側になっていることや周囲を警戒する意味もあり装甲車の屋根には防護服を着ている兵士が重機マシンガンを構えながら周囲を警戒している。
『依然として周辺に敵影無し』
都市国家内にある本部及びその関係者に定期報告を終えた部隊長もまた防護服姿だ。
そうして周囲を警戒しながら進むこと3週間後、特殊部隊の前方に山が見えてきた。事前にハンターが調査した通りの格好の山々を見て目的地に近づいたことを確認するとその場で部隊を止める。
「ここからあの山裾までの距離は?」
「直線距離で33Kmあります」
「工場は山の向こう側だな。ドローンを飛ばせ」
1機のドローンが装甲車から飛び出ると山を目指して飛行していく。そうして山を迂回して反対側に回るとその先の荒野に並ぶ大量の機械獣が見えてきた。
「すごい数の機械獣だ」
モニターに映し出される映像を見て思わず声を出す隊員。隊長も頷きながらも
「上空から工場の入り口まで近づいたらここからの距離を教えてくれ」
ドローンが上空から山裾の工場に近づいていき、スクリーンにその工場の入り口が見えてくると、
「ここから工場入り口まで38Kmです」
そうしてドローンが映しだす画像に工場の入り口が見えてきた。事前の調査通りその工場の門は開いたままだ。そして中から機械獣が出てきているのが見える。
ドローンの画像から目を離した隊長はマイクを掴むと
「わかった。あと10Km前進して停止しよう」
そうして速度を落とした部隊は20分後に目的地から28Kmの地点で停止した。そこで周囲を警戒して魔獣の気配が全くないのを確認するとその場で全ての車の燃料を満タンにし、そうして輸送車から巨大な爆弾を積んでいるドローンを慎重に荒野におろす。
4台の装甲車が輸送車と燃料車を囲む様り止まり、周囲を警戒する中、大型のドローンを無事に地面に降ろすと、
「燃料車、輸送車及び2号車、3号車、4号車はこのまま引き返してくれ。攻撃は今から1時間後に開始する。集合地点は事前に決めたポイントだ。そこまで引き返して待機」
隊長の声で1号車と呼ばれている装甲車以外の他の車は今の命令を聞き、車の向きを変えると都市国家に向かって走り出していった。万が一を考えて彼らは防護服を着たままだ。
残ったのは1号車の装甲車の中に運転手、そして大型ドローンの”目”の代わりをする小型のドローン2機を操縦する兵士、そして核爆弾を積んでいるドローンを操作する兵士、隊長の5人だ。
飛ばしていたドローンを回収すると充電をする。そうして1時間が経った。
「準備はいいか?」
隊長の声に大丈夫ですと返事をする3人のドローンのオペレーター。
「作戦開始!」
その声で大型ドローンがゆっくりとその場から浮上していく。そしてその前後を挟む様に小型のドローンが地上から浮かび上がって1機は前方の状況を確かめる様に飛び、後方の小型のドローンが映し出す画像を見ながら核爆弾を積んでいる大型のドローンが地上200メートルまで上昇した。後ろのドローンは大型ドローンの目の役目をしている。
上昇した空中で縦に隊列を組むとゆっくりと機械獣の工場を目指して飛行を開始する。核爆弾を装備しているドローンの操縦士は装甲車に戻ると後ろから追尾する小型ドローンの画像を食い入る様に見ながらドローンを操作する。
「前方に脅威無し。このままの高度で飛行します」
「了解」
核弾頭を積んでいる大型のドローンはマヤの武器メーカーが保証した速度を出してゆっくりとだが確実に200メートルの高さをキープしてターゲットとなる工場に近づいていった。
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