その男、最強のハンター也
花屋敷
都市国家の章
第1話 リンドウ
サイドテーブルに放り投げていた端末から着信音が鳴り始めた。
その横にある大きなベッドから手が伸びて端末を取って通話モードにするやいなやスピーカーの向こうから声が飛び込んでくる。
「リンドウ、またミッションよ」
その声を聞いてゆっくりとベッドから起き上がる男、寝ぼけ眼で右手に持った端末を見ると自分が所属している機関の直属の上司が映っていた。男なら誰でも知り合いになりたいと思う様な男好きする美人だ。肉厚の唇のセクシーな顔が映っている。もっとも今端末のモニターを見ている男は顔以外の部分についてもこの美人上司については隅々まで知っているが…。女の顔を見て嫌な顔をする男。
「断る。2日前にミッションを終えたばかりだぞ、休ませろ」
上司の言葉に即答するリンドウ。
「もうゆっくり休んだでしょ?」
リンドウと言われた男はベッドから立ち上がって端末を手に持ったままリビングに移動するとそこにあるソファに座る。全裸だ。23歳、身長は188センチ、体重85kg、贅肉が全くついていない筋肉質の身体。黒い髪に黒い目、無精髭を伸ばしているが精悍な顔つきをしている。身体には前も後ろも無数の傷がついていて、歴戦の戦士をその傷が物語っている。
リンドウは全裸のまま端末を睨みつけると
「あんたに言われたミッション、1人でD3地区の機械獣の動向を探りながら可能な限りの機械獣を殲滅せよ。調査期間は2週間。覚えてるか?2週間ぶっ通しだぜ。毎朝早くからここからD3まで出向いて夜に帰ってくる。くたくたになって家に帰って来たと思ったら翌日も朝から出向く。この繰り返しがやっと終わって1日だけの休みなんて納得できるわけがないだろう」
端末に向かって一気に捲し立てるリンドウ。
「知ってるわよ。それについては過分な報酬で応えたつもりだけど? ついでに言うとその調査も素晴らしかったわ。端末から送られてくるデーターが私たち本部に取ってどれだけ有益な情報だったか」
「俺の仕事を褒めてくれるのなら礼はいいからしばらく休ませろ」
画面の向こうで上司が困った顔をする。そんな表情からも色気が滲み出ているのが画面を通じてもわかる。リンドウは大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせると、
「なぁ、ツバキ。俺がクタクタなのはわかるだろう?それにハンターランク上位の奴は他にもいっぱいいる。今回はそいつらの誰かを派遣させてくれよ」
ツバキと言われた上司はリンドウの言葉を軽く聞き流し、
「今回は2週間なんて言わないわ。1日か2日で終わると思うの。ねぇ、私を助けると思ってお願い」
そう言ってからそのあとに、
「ちゃんとこの埋め合わせはするから。仕事が終わったら私の部屋に泊まりに来て」
端末の向こうの声が艶っぽくなる。その言葉を聞いて全裸の体の中心部分が熱く漲ってくる。端末の画面の向こうの女の見事な肢体を思い出しながら、
「しょうがないな。約束だぜ。ところで何が起こってるんだ?」
リンドウはソファから立ち上がると冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してそれをぐいっと一口飲む。そしてまたソファにどすんと腰をおろした。
ツバキはにっこりしてそしてすぐに仕事モードになると
「D4地区に大型の蜘蛛型機械獣数体とその取り巻きの同じ蜘蛛型の小型の機械獣が侵入してきているの。このままだと6日後に絶対防衛ライン(都市国家防衛隊の城壁の砲台から発射される弾丸の到達距離)に到達する。ミッションはその手前でこの集団を殲滅すること。報酬は200万ギールとわ・た・し」
200万とスクリーンに映っている女の身体だと聞いて
「1日で200万?えらく気前がいいじゃないか。どうせ都市防衛隊が自分たちの弾丸を使いたくないからってハンター任せにしようとしているんだろうが」
そう言って再びミネラルウォーターを口に運ぶリンドウ。
「弾丸を使いたくないっていうより必要以上に国民に不安を与えたくないってのが本音ね。今回は不安を煽るほどでもなくハンターで十分対応可能だっていうのが上の考えよ」
「ふん、都市の城壁の砲台群は何のためにあるんだよ。こんなことばかりしてたらいざという時に使い物にならないぜ」
「うちも都市防衛隊に借りを作ることができると色々と便利なのよ」
「わかったよ。全く人使いが荒いぜ」
渋々リンドウが話を受けると、ツバキが画面の向こうでにっこりする。
「今回は集団の規模が大きいのでリンドウの他にAランクのハンター2名との共同作戦よ」
「そういうことかい」
「リンドウもよく知っているエリンとルリの2人組よ」
「あいつらか」
リンドウは顔をスクリーンから離し、上を向く。端末からはツバキの声が聞こえてくる。
「彼女達から2名じゃ事故が起こるかもしれないからあと1人加えてくれって話が来てね、誰がいい?って希望を聞いたところ貴方の名前が出たのよ」
リンドウは顔を部屋の天井から端末に向けると、
「ご指名か。そりゃありがたい話だよ」
全くありがたくなさそうな口調で言う。ルリとエリンはリンドウもよく知っている間柄だ。仕事でもそれ以外でも。
「明日の9時にD門に集合。エリンとルリはそこで車と一緒に貴方を待ってる。そのあとはお任せするわ。よろしくね」
端末を切るとリンドウはまだ昼にもなってないじゃないかよと1人で呟くとテーブルに端末を置き、仕方ないなとシャワーを浴びるために浴室に入っていった。
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