第130話 偵察ミッションスタート その2

『1週間から10日みてくれ。沖合で待っててくれたらこちらから連絡する』


『了解』


 砂浜に装甲車を下ろすと鉄板をあげて離岸していく輸送船。その船と通信をしたリンドウ。すると今度はエリンがインターコムを通じて本部に連絡を入れる。


『こちらエリン。上陸完了。これより工業団地に向かいます』


『了解』


 短い返事が来て行こうかというランディの声と同時に8輪の装甲車が砂浜から荒野に乗り出していく。


 運転席にはランディが座り、エリンは後部にあるラップトップを見ながらルートをチェックして適宜ランディに声を掛ける。そしてルリとリンドウは交代で装甲車の屋根に上がって周囲の警戒だ。装甲車にいる時はレーダースクリーンを見るのもリンドウとルリの仕事だ。この4人で何度もミッションをこなしてきているのでチームワークも何の問題もない。


 8輪の装甲車は周囲を警戒しながら荒野を東の方角、先端工業団地を目指して進んでいく。前回の探索時にこの辺りのマップは作成してあったので夜になる前に車を隠せる廃墟に着くとそこで野営の準備をする一行。


「やっぱり起伏が大きいからレーダーがあまり効かないわね」


 レーダーを見ながらエリンがぼやく。


「それは仕方ない。少しでも見通しがいい廃墟の上から目視で監視した方がいいな」


 ランディは見張り役から外してしっかり睡眠をとってもらい3人が交代で見張りをすることにする。前回機械獣に遭遇しなかったからといって見張りを止めるほど4人は間抜けではない。ここは荒野で機械獣の”シマ”なのだ。注意してもしすぎることはないだろう。


 そうして進軍した3日目の夕刻、見覚えのある起伏の上に到着した一行。装甲車を降りて起伏の先を見れば足元、起伏を降りたその先に先端工業団地の全景が見えている。


『こちらエリン。工業団地が見える地点に到着』


『こちら本部。映像を見ているがもう夕方だな。探索は明日の朝からで構わない。周囲には十分注意してくれ』


『了解』


 エリンが本部と通信をしている間、リンドウは狙撃銃のスコープを覗いて工業団地の様子、特に建物の周辺の機械獣の動きを見ていた。


「見た感じはどう?」


 スコープを見ているリンドウの後ろからルリが声をかけてくる。ランデイは装甲車の上で周辺を警戒しており、通話を終えたエリンも近づいてきた。


「見た感じだと前と変化はないな。右側の例の生産ラインは相変わらず死んでいる様に見える。左の機械獣の生産ラインは動いている様だが機械獣の形までははっきりとは見えない」


 スコープから目を離して起き上がると


「いずれにしても明日だ。憶測で決めつけるのはよそう」


 翌朝交代で朝食を取ると早速仕事を開始する。エリンとルリがドローンを飛ばすとすぐに装甲車の中にあるモニターの前に座り、


『こちらエリン、今ドローンを2機飛ばした。映像は届いてる?』


『こちら本部だ。2機の映像ははっきりつ写っている。クリアだ』


 インターコムを通じてこのやりとりを聞いていたリンドウは見張りをかねて廃墟の上に上がって四方に注意を払い、時々狙撃銃のスコープで工業団地を見る。2機のドローンは今は工業団地の上におり上から団地内を偵察していた。ランディは運転席に座ったままだ。いつでも装甲車を動かせる状態にしている。


『1号機は機械獣の生産ラインを、2号機は停止しているであろう南側を見てくれ』


 本部から指示が飛ぶとその通りにドローンを操縦するエリンとルリ。エリンが1号機、ルリが2号機を操作している。上からの全景を撮影すると今度は両機ともに高度を下げて工業団地を横から撮影していく。

 

 ルリの2号機が停止している南側をゆっくりと移動していく。モニターを見ているルリや都市国家の関係者達も画面を食い入る様に見ている。


『核兵器側のラインが動いた形跡はありませんね。破壊されたラップトップもそのままで放置されています』


 スクリーンを見ている情報分析本部の職員の声がインターコムに届いてくる。しばらく他の場所も見ていたが核兵器関連施設は以前から変化なく稼働していないという結論になった。


『2号機も1号機と同じく機械獣の生産ラインを調査してくれ』


『了解』


 ルリの2号機は高度を上げると上から撮影する。エリンの1号機は横からだ。崩れて中が見える場所にホバリングさせて中の様子を映し出している1号機。スクリーンには2ラインから次々と機械獣が作り出されているのが映っている。


 2号機は上から生産された機械獣が工場の前の土地に集結しているところを撮る。


「従来の機械獣ばかりね」


「大型は2体に1体が2丁マシンガンになってる。マシンガンを積んでいない大型には小型を乗せるんでしょう」


「マシンガン獣の割合は増えてるが機械獣としては進化していないってことか?」


 エリンとルリとのやりとりにリンドウの声が飛び込んできた。


「そうね。進化した機械獣は見られない。生産ラインも増えてないみたい」


 その後も上からと横から工業団地の生産ラインを撮影して


『ドローンのバッテリーも残り少なくなってきた。そろそろ引き上げる』


『本部了解。工業団地の視察はこれでOKだ。現時点でこれ以上の探索は不要だ』


『了解、現場を離れます』


 エリンの声を聞いてリンドウが廃墟の上から装甲車に戻ってきた。そして2機のドローンを回収すると運転席に座っていたランディが装甲車のエンジンをかけてゆっくりと現場から離脱する。


 装甲車の屋根の上で背後を警戒しているリンドウ。


「今のところ敵影無し」


「レーダーにも映ってないわ、このままできるだけ離れましょう」


 昼過ぎに工業団地の視察場所を離れた一行は夕刻に廃墟の中に車を乗り入れた。


「何もないってことがまずは確認されたね」


 エリンの言葉に頷くリンドウ。こうして1つ1つ潰していくことが結果的にハンターの生存率を上げることになるので無駄骨だったとは誰も思っていない。


 その後の帰路の間も機械獣の襲撃は無く、予定より少し早く上陸地点に戻ってきた一行は船に装甲車を乗せるとそのまま入江の沖で停泊し、物資の補充と2日の休息を取ることにした。

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