第58話 先端技術工業団地
政府は都市防衛本部、情報分析本部そしてハンター本部との合同の会議を定期的に行なっている。都市国家の外にいる機械獣の動向についての意見交換だ。
ただ、巨大廃墟が見つかり、その地下に通路が発見されてからはその対処や今後の活動についての打ち合わせがメインになっている。
この日も政府と3社での会議が政府機関内にある会議室で行われていた。各本部や機関から3名が出席している。ハンター本部も情報分析本部も都市防衛本部もその3名の参加者のうち1名はTOPの本部長だ。その会議室のスクリーンには見つかった地下鉄の路線図が映っている。
そしてその路線図では今回見つかった巨大廃墟が過去は地下鉄で繋がっていたという路線が書かれており、その地下鉄が数カ所で途中から上に伸びている路線も書かれていたが、上に伸びている路線は途中まででその先がどうなっているのかはスクリーン上では見えない。
「この上に伸びている先は?」
都市防衛本部から会議に参加している担当者が質問する。それに答えて情報分析本部の分析官が地図をスクロールした。全員の視線がスクリーンに注目しそしてスクロールされた先を見て皆思わず身を乗り出してしまう。
「…この駅名は…」
しばらくの沈黙の後言葉を絞り出したのは都市防衛本部の担当者だった。視線はスクリーンに釘付けのままだ。
スクリーンには下から上に伸びている路線の終点の駅が書かれてあった。そしてその駅の名前は
『先端技術工業団地』
しばらくの沈黙の後ハンター本部の担当者が口を開く。
「路線図が下の部分は赤色だったがスクロールすると途中から青色になっている。その理由は?それとこの先端技術工業団地に関する資料はあるのですか?」
彼の質問に頷くと、情報分析本部の分析官が説明を始めた。
「色が赤色から青色に変わっているのは赤色が地下部分、青色が地上部分とのことです。つまりこの路線は廃墟間は地下で繋がっており、そこから北に伸びている線については途中から地上に上がって線路が伸びていたということになります」
黙って頷く都市防衛隊とハンター本部の担当者達。情報分析本部の分析官が説明を続ける。
「これは路線図ですので駅間の距離についてはわかりません。ただ都市防衛隊の調査隊がこの線路の5,000メートル先までは調査済みですが、その時点では地上には上がっていなかったというのがわかっていました」
そこで一旦言葉を切ると、
「その後色々な資料やデーターを分析したところ、推測ながらある程度の予想図ができました」
そう言ってスクリーン上で違う地図をアップした。それは見つかった巨大廃墟に路線図を書き加えたものだ。それを見てまた絶句する参加者達。
「先端技術工業団地というのは僅かに資料が残っています。それを基に作成した予想地図がこれです」
じっと資料を見ていた都市防衛本部の担当者が、
「推測だというが、これほどの規模の工業団地であることは間違いはないのか?」
推測で書かれた地図では先端IT工業団地の規模は縦が7Km、幅は10Kmはある巨大な施設になっている。
「ええ。当時の政府がIT関連の研究、開発、そして生産工場の集中化を進め、この程度の工業団地が数箇所あったとの記録が残っています。そして書かれた時期は不明ながらこの工業団地の地図も見つかりました」
「廃墟からこの工場までの距離は?」
「100Kmから150Kmの間」
都市防衛本部担当者の質問に即答する分析官
「都市国家から巨大廃墟まで約600Km,そこから約150Km先にこの施設があるというのか」
誰かの言葉に分析官が頷いて、
「機械獣が地上を移動してくることを考えてもこの施設跡が非常に怪しいといのが我々の見解です。あくまで推測ですが」
ちょっと待ってくれとハンター本部の担当者が発言を求め、
「この様な施設が数カ所あったという記録があると言っていたが。となるとこの工場が最終の目標ではない可能性もあるということだな」
「その通りです。現在機械獣の生産を指示しているAIがここにいるとは限りません。遠隔でコントロールしている可能性も十分に考えられます」
分析官の回答に続いてハンター本部の本部長が発言をする。
「巨大廃墟がこの工業団地で働く人間の居住エリアだったとしたら、この工業団地の位置は遠すぎないか?もっと団地の近くに居住エリアをつくるのが普通じゃないのか?」
その質問に分析官は政府から来ている担当者と視線を交わす。そして政府の担当者が頷くと、参加者の方を向いて、
「もっともな指摘です。距離が離れ過ぎています。でもこれには理由がありました」
そこで1つ間を置くと、ただ一言、
「見つかった工業団地の地図の中に核兵器開発予定区と表示されたエリアありました。ここです」
と先端技術工業団地内のとあるゾーンを指差す。核兵器と聞いて会議室が沈黙に包まれる。
しばらくの沈黙の後、今まで黙っていた政府の担当者がおもむろに口を開いた、
「この工業団地では核兵器の開発を行なう計画があったということだ。ただ残念ながら図面の制作日時が不明なので予定で終わっているのか、何がしら工事が始まっていたのかというのは今のところ分からない。居住エリアが工業団地から離れているのは将来の万が一の事故を考えて距離を取っていたんだろうという見方だ」
工業団地が先の大戦で被爆しておればこの工業団地は跡形もなく消滅していただろう。それが奥から機械獣が出現しているという事実から推測するとこの工業団地は”生きている”と考えるのが自然だ。
重い雰囲気が場を包む。
「当然だが今日のこの件については関係者以外他言無用だ。余計な不安を煽りたくない」
政府担当者の言葉に頷く参加者達。しばらくの沈黙の後政府担当者より
「この工業団地の探索をするかどうかについてだが、政府としてはしばらく手を出さずに傍観することにした。探索するにしても距離はあるし、途中には巨大廃墟もある。そして核兵器の開発予定地区という表示だ。今の時点では情報が少なくリスクが大きすぎるというのがその理由だ。ただいつまでも放置するという訳にもいかないだろう。何か方針というか案が出た際には皆さんにも連絡する」
参加者全員が納得して頷いてこの日の会議は終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます