第70話 盾

 機械獣がマシンガンを装着したという情報はあっという間に都市国家内のハンターに伝わっていった。それと同時に持ち帰った機械獣を調べた情報分析本部から正式に調査結果が公表された。


 それによるとマシンガンの射程距離は最大で700メートル。ただし実際は500メートルを超えると弾が分散して威力が激減する。そしてマシンガンの装弾数は80。装甲は足と背中が強化されていて通常の弾では装甲を撃ち抜くのは難しい。そして重くなった分以前の蜘蛛型の大型機械獣より約15%移動速度が落ちている。


 500メートル以内に入ると危険だということ。射程距離の短いマシンガンだと急所を狙わないと倒せない事。これらの情報でハンターの中で武器を変更するものが出てきた。上位のランクBの冒険者達は従来のマシンガンから射程距離が800メートル程度のマシンガンに買い替えていく様になった。自分を守る為だ。ギールを持っているハンターは更に上のランク、エリンやルリが持っている射程1,000メートルのマシンガンに買い替えていく。


「皆マシンガンを買い替えている。親父さん笑いが止まらないんじゃないのか?」


「ふん、今まで赤字で苦労してた分を少しだけ取り返しているだけさ」


 武器屋の親父のサムとそんな軽口を叩き合ってからリンドウは3層に入るとD地区のハンター支部のオフィスに入っていき、端末で指示されていた会議室に入る。すぐにエリンとルリがやってきて、それに続く様にツバキと職員が会議室に入ってきた。そうして全員が着席するなり、


「ミッションよ」


 その言葉にルリが


「マシンガン獣の調査?」


「その通り」


 背中にマシンガンを装備した大型の機械獣、ハンターの間ではマシンガン獣という呼び方が定着しつつあった。ツバキと一緒にきた職員が説明を続ける。


「調査内容だが、マシンガン獣がどの程度いるのかという数の調査ではなく、マシンガン獣を見つけ、そして実際に機械獣にマシンガンを撃たせてもらいたい。そしてその時の挙動や弾の散乱具合をビデオに撮るというのがミッションだ」


「ちょっと、それって私たちに盾になれっていうの?」


 棘のある口調でエリンが職員を睨みつける。職員がそういう事になるとはっきりと言うと会議室が一気に剣呑な雰囲気になる。


「もちろん荒野に突っ立ったまま攻撃を受けてくれなんて言わないわ」


 ツバキがそこで言い、続けて


「装甲車の窓から撮影して欲しいの。装甲車の装甲は機械獣のマシンガンに耐えられるのは保証する。あなた達は窓にカメラをセットしてまずは撃たせる。それから討伐して欲しいのよ」


 その言葉で緊張が緩むエリン。ルリも先にそれを言ってよといつもの表情で話す。


「そうは言ってもマシンガンの弾が窓から入ってくる可能性もあるからそこは十分に注意をして欲しいのだけど」


「マシンガン獣の銃弾は80発と聞いている。全部撃たせる必要はないんだろう?」


 会議室に来てからずっと黙っていたリンドウが口を開いた。


「その必要は無いというか彼らの挙動がわからないのよ、全弾撃ち尽くしてしまうのかそれとも何回かに分けるのか。ただ危ないと思ったら途中で倒してくれても構わないわ」


「なるほど。最初は撃たせるがその後自分たちがやばいと感じたら途中でも倒しても構わないって事だな」


「ええ。そこまでハンターを危険に晒す気はないの」


「よく言うぜ、先に敵に撃たせろって言う時点でこっちのリスクはかなり大きい」


 リンドウが言うとエリンとルリもその通りね。と同意する。


「そちらの言い分ももっともだ。なので今回のミッションはこのD地区の上位3名を指名している。お前さん達ならあらゆる事態にも臨機応変に対応できるだろうしな。今のところマシンガン獣が現れたのはD地区だけだ。だからミッションも本部経由でD支部の指名で来ている。報酬については本部からかなりの額の提案が来ているから確認してくれ」


 そう言って職員が端末を操作すると3人の端末に今回のミッションの契約書が送られてきた。その中の報酬額を見て思わず嘘!と声をだしたのはエリンだ。


「なるほど機械獣の盾になる金がこれか」


「死んだら終わりだけどそれにしてもよくまぁこれだけ出す気になったわね」


 3人全員が何度も報酬額を見てそして端末から顔をあげた。マシンガン獣1体の撮影に出されている報酬は1人あたり3,000万ギールだ。


「報酬についてはツバキ支部長がかなり本部と掛け合ってくれた。D地区の上位3人を出すんだからな。それ相応の報酬じゃないとハンターに頼めないって言ってな。それともちろん弾丸代はハンター本部持ちになる。」


「いいだろう。やってやろうじゃないか」


 リンドウが言って同意をクリックするとエリンとルリも同じ様にする。


「装甲車と撮影用のカメラはこちらで用意する。出発は2日後の朝9時だ」


 頷く3人。最後にツバキが


「あなた達はD地区のトップ3のハンター。期待してるわよ」


 ツバキと職員が会議室から出ていくと残った3人で打ち合わせをする。


「エリンは装甲車の中で撮影担当だ。ルリは同じ様に装甲車の中で準備してくれ」


「リンドウは?」


 リンドウの指示に頷いたエリンが言う。


「装甲車の屋根の上からマシンガン獣を狙う」


「大丈夫?」


 ルリが心配そうに聞いてくる。


「屋根の上で伏射なら大丈夫だろう」


あと細かい点を打ち合わせてからルリが


「それにしても盾になって情報収集か」


「リスクは高いけど破格の報酬よ。うまくやってがっぽり頂いちゃいましょうよ」


 エリンの言葉にルリもリンドウもそうだよなと頷いて支部のビルを出ていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る