第113話 第2次大規模襲撃 その5
迎え撃つ体制が大凡固まりこれで会議は終了かと思う時にリンドウが手を上げて発言をする。
「ここに来る時から考えていたんだが、今回は途中からここに向かってきている機械獣の大群が2つに分かれると思う」
突然の話に司会をしていたアイクがどういうことだ?今大きな1つの集団で向かってきているんだぞ?と聞いてきた。リンドウは頷き、
「今はそうだ。ただ今回の機械獣の動きは間違いなく前回の総攻撃での彼らの弱点というか失敗点を改良してきている」
アイクが続けてくれと促すと、
「おそらく攻撃箇所は2箇所。こことH地区で変わらないだろう。近づいてきてから他の場所にターゲットを変更することはないと思う。それじゃあ前回と同じだからな。分散した戦力では都市国家の防御を崩せないのはわかっているはずだ」
周囲は黙ってリンドウの発言を聞いている。
「今こちらに向かっている機械獣達は城壁の砲台の射程距離の先、砲弾が届かない場所で2つに分かれると思う。足の速い四つ足部隊とマシンガン部隊とにだ。何も言わなければ守備隊の砲台は四つ足の機械獣が射程距離に入ると砲弾を撃つだろう。だがそれは奴らの作戦、思う壺だと俺は思う。四つ足相手に砲弾をたっぷりと使わせて消費させてからゆっくりとマシンガン獣が射程距離の範囲を通過してこっちにやってくると思う。今回の奴らの攻撃において足の速い四つ足の機械獣はいわば捨て駒だ。その捨て駒を砲台で相手にすると本隊のマシンガン獣の処理の時に砲弾が追いつかなくなる」
機械獣の動きを読み切っているリンドウの言葉に支部長を始め他の30名近いハンターも皆言葉が出ない。アイクとリンドウのやりとりが続く。
「リンドウならどういう指示を出す?」
「2つに分かれて四つ足がスピードを上げて砲台の射程距離に入ってきても撃たない。そのまま流して都市国家に向かわせる。攻撃手段を持たない四つ足ならいくらいても雑魚だからな。城壁のマシンガンと俺達の銃で十分に殲滅が可能だ。そしてマシンガン獣の本隊が射程距離に入った時に全ての砲弾を使ってできるだけ数を減らす。これで3割、できれば4割の大型を処理できればあとはこちらで十分に対処できる」
そして最後に当初のプラン通りに元の地区に半分のAランクは残しておいた方が良いだろう。万が一ってこともあるしな。と付け加えた。
タツミが流石だなと言う。黙って聞いていた支部長らはリンドウの話しが終わるとお互いに顔を寄せて話しあう。短い打ち合わせが終わると、
「今の意見は非常に参考になった。すぐにH地区及び都市国家防衛本部、情報分析本部に連絡してもし射程距離の手前で四つ足がスピードを上げて大群が2つに分かれたら足の速い四つ足には砲弾を撃たずに大型を待って大型に全砲弾を撃ち込む様に依頼しよう」
アイクの言葉に頼むと言うリンドウ。
これで会議は終わり29名のAランクハンターはB門近くにある大きな休憩所に移動することになった。
ハンター全員が出て行った後、残った5地区の支部長と職員は
「あれがランクNo.1ハンターの実力か」
「機械獣をコントロールしているAIの動きを見事に読み切ってるわね。狙撃の腕はもちろん、それ以外の戦術や相手の動きを読む力。全てがNo.1よ」
A支部の支部長のフィルとE地区の支部長のツグミが感心した声で言う。
「あいつは常に2、3手先を読んでいる。巨大廃墟の探索もしかりだし、先端技術工業団地の破壊ミッションでもそうだ。あれほどのハンターはいない。今回の機械獣の進軍、おそらくリンドウの言う通り砲台が届く距離より離れたところで2つのグループに分かれるぞ」
リンドウを知っているC地区のアズミが言う言葉に同意する他の地区の支部長。ツバキは黙って聞いているが内心では流石ねとリンドウに拍手喝采を送っていた。
「リンドウの様なハンター。それにNO.2とNO.3のエリンとルリ。ツバキ支部長の所にいるハンターは優秀だな」
アイクの言葉に
「彼ら3人は別格ですよ。エリート中のエリート。当人達は決してそういう素振りは見せませんけどね。それがまた周囲から信頼されて周囲が彼らを手本とする。そう言う意味では今D地区のハンターは上手く廻っていると思いますよ」
29名のAランクハンターがB地区の4層を移動する姿は圧巻だ。皆左肩にランク章を貼り付けてゆっくりとB門近くの休憩所に向かって通りを歩いていると人垣が割れて自然と道ができていく。まだ完全封鎖はしていない4層にはハンター以外にも普通の人が歩いているし店も開いている。賑やかな通りを歩いていく29名。
「リンドウ、いい読みしてるぜ。お前さんの話を聞いて俺も確信したよ。奴らは2つのグループ分かれるのは間違いないな」
リンドウの近くには自然と人が集まっていた。その中からC地区のタツミが話しかけてくる。近くを歩いている同じC地区のケインも
「しかしまぁよくそこまで先読みができるもんだ」
「死にたくないと思うと相手の動きを必死で予測するだろう?」
「それでもあそこまでの読み筋は普通は出てこない。だからこそのトップランカーか」
タツミとケインが話をしているのを聞いている他のハンターも歩きながら頷いていた。そしてこのリンドウという男は自分達が想像していた以上に優秀なハンターなのだと改めて認識する。
Aランクハンターの大抵のハンターは目の間の事象に対処するのは上手い。個人戦では皆極めて高いレベルにある。しかし今回の様な団体戦はハンターとして不得手な分野だ。その不得手と言われている団体戦においても先を読んで相手の好きにさせずに自分達のフィールドに呼び込もうとするリンドウの発想には皆内心で舌を巻いていた。
休憩所に入ると今回の29名の全員が自己紹介をしてそれから思い思いに時間を潰すことになる。リンドウは知っているハンターもいれば初めて会うハンターもいたが誰に話しかけられても気さくに答えたり、時には冗談を言ったりしてリラックスして時を過ごしている。
休憩所の外ではランクB、Cのハンターが忙しそうに走り回っていた。今回は敵の数が多いということで大量の弾丸を城壁の上に運んでいく。城壁にはハンターの配置場所と使用する銃、弾丸のタイプが書かれている札が立てられていてそれを見てチェックしながら間違いのない様に弾丸を積み上げていく。そして城壁の内側ではすぐに弾丸を補充できる様にここにも名前の書かれている札の前に大量の弾丸が積まれていった。
それとは別に軽食を作るチームや飲料水を配るチーム、医療班等さまざまな人たちが忙しそうに動き回っている。
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