第4話 ミッション


 荒野に出てしばらく走ってD1地区からD2地区に入ったあたりで、

 

「最近大型機械獣の出現が多くない?」

 

助手席に座っているルリが周囲を警戒しながら誰かれともなく言う

 

「ねぇ、リンドウはルリの話、どう思う?」

 

 後部座席に座って狙撃銃を布で拭いていたリンドウ。四輪駆動の車は土ぼこりを立てながら荒野の中を疾走している。走る四駆の左右にはずっと昔の建築物が倒れて半分風化したままに残っていて車は時折その残骸の間を縫う様にしてすっ飛ばしていく。ゴーグルにあるスピーカーから聞こえてくる声に、

 

「確かにルリの言う通りだ。どこかにある工場でフル生産してるんだろう」

 

「ということは?」

 

 ルリの質問にリンドウが答える。

 

「ああ。そのうちに大型の機械獣がごっそりと集団で襲ってくる様になるだろうな」

 

「いいわね。派手な戦闘大好き、稼ぎもよくなるし」

 

 運転しているエリンが舌なめずりをした。

 

「全くお前さんらは戦闘狂だよな」

 

「生きるか死ぬかの瀬戸際の戦闘って興奮するのよ。セックスと同じで強烈なエクスタシーがくるのよ」

 

「そうそう、時々戦闘中でも逝きそうになっちゃうこともあるしね」

 

 二人の会話を聞きながら周囲を警戒しているリンドウ。もちろん前に座っている二人もそんなバカ話をしながらも周囲の警戒は怠らない。

 

 D門を出て4時間以上ひたすら荒野を走っていると、

 

「そろそろ待機地点よ」

 

 エリンの言葉で後部座席に座っているリンドウが狙撃銃に初弾を送り込む。事前に選んでいた残骸の場所に到着すると倒壊している建物の陰に車を隠し、3人は残骸の中で位置取りをした。


 リンドウは残骸の中にあるコンクリートの塊を見つけるとその上に上がり、そこで腹ばいになってバイポッドでロングレンジライフルを組み立て固定するとスコープを覗いて微調整をする。

 

「ランデブー時間は?」

 

端末を見ていたエリンから即答で

 

「28分後」

 

視線を下におろすとエリンとルリの2人がマシンガンを持って残骸の壁に身体を寄せている。

 

20分程経つと彼らの視界の前方の荒野に砂埃が立っているのが見えてきた。

 

「あれか」

 

「ええ。戦闘は各自のタイミングで始めてね」

 

エリンの言葉に頷く他の2人。

 

 スコープを覗くと蜘蛛型の大型機械獣数体の周囲を取り巻きの蜘蛛型の小型獣が囲む様にして都市国家に向かってこちらに進んでくるのが見えた。

 

 じっとスコープを覗くリンドウ。近づくにつれてその全景がはっきりと見えてくる。そしてスコープで先頭の大型機械獣に照準を合わせる。

 

 3人ともじっと待っている。敵の姿がどんどん近づいてきた

 

「距離4,000メートル」

 

エリンの声がゴーグルを通じて聞こえてくる。


「3,000メートル」


 ここでリンドウのロングレンジライフルが火を噴いて1体倒す、すぐにもう1体も倒した。

 

「2,800メートル」


 その声と同時に3体目の大型がリンドウの銃で倒れた。


「あとはよろしく」


 そう言ってライフルのスコープから顔を上げるとそばに置いてある狙撃銃を手に持って2人を見る。

  

 そして700メートルに近づくとエリンとルリの2つのマシンガンが火を噴いた。


 マシンガンを左右に振って近づいてくる機械獣群に弾丸の雨を降らせる。弾丸を浴びて飛び散る取り巻きの機械獣達。女性2人がばらまいている弾丸は通常弾ではなく爆発性の強いタイプだ。

 

 2人の攻撃であっという間に全て取り巻きが爆発を起こした。本体の背中から降りた取り巻きも地面に飛び降りて襲ってきているがそれらを全てマシンガンの乱射で片っ端から倒していくエリンとルリ。


 「いつ見ても見事な腕前ね」

 

「3,000メートルのスナイプ、いつ見ても興奮しちゃう」

 

 取り巻きも含めて完全に討伐したのを確認するとスコープから目を離してエリンとルリを見る。2人は皮のスーツのファスナーを臍の下まで降ろしていた。

 

「久しぶりよ、この感覚」

 

「たまらないわ」

 

 はだけたスーツ、メッシュ越しに2人共見事な形をしている乳房を両手で揉み始めている。

 

「ここはD4地区だぜ、興奮してよがるのは後だ。おれはこんな危険な場所でやりたくない。とりあえず帰るぞ」

 

コンクリートから降りてきてリンドウに

 

「あんなの見せつけられたら濡れちゃうわよ」

 

「そうそう、リンドウの正確無比な射撃を見てるだけで濡れてきちゃったんだから。あとでしっかりと責任を取ってもらうわよ」

 

 2人共ファスナーを胸の辺りまで引き上げると残骸の裏に隠していた車に乗り込んで帰路につく。

 

 帰路につきながら助手席のルリがゴーグルに向かって話しかけている。ついさっきまでの艶っぽい口調ではなく事務的な口調だ。

 

『ミッション終了。大型蜘蛛型機械獣3体及び取り巻きの小型蜘蛛型機械獣18体全て討伐完了した。これから帰還する』

 

『ご苦労様。帰還したら支部に報告に来てくれる?』

 

『了解。途中で野営になるから報告は明日になるわよ』

 

 そうして途中の廃墟で野営をし、翌日にD門を潜って4層に入ると停車した車からリンドウが飛び降りて

 

「支部への報告は頼む、報酬は後で俺の端末に振りこんでおいてくれ」

 

 そう言うと車から離れようとしたリンドウの手を掴んでグッと引っ張って自分の方に寄せるルリ。引っ張り寄せたリンドウの耳元で、


「後で2人で行くから玄関の鍵は開けておいてね」

 

 リンドウが頷くと手を離し、お疲れ様と言いながら2人で車に乗ったまま支部に消えていった。車が視界から消えるとそのまま4層の自宅に戻ったリンドウ。

 

 迷彩服と防御スーツを脱いでシャワーを浴びながら車での会話を思い出す。

 

 確かに大型機械獣が増えてきているのを実感していたリンドウ。このミッションの前に行ったった探索ミッションも以前こなした同様のミッションの時よりも大型との遭遇が多かったと感じていた。幸いに大型との遭遇は単発が多いだけだったので普通に討伐できてはいるが、これが集団で組織的に攻撃してきたら厄介なことになるだろうと。その点もツバキに提出したレポートには記載しておいたが。

 

 シャワー室から出て全裸でソファに座ってミネラルウォーターを飲んでいると扉が開いてルリとエリンが部屋に入ってきた。全裸のリンドウを見て二人の目が淫蕩になる。

 

「報酬の250万は振りこんでおいたわよ」

 

 エリンが先にシャワー室に消えると残ったルリが座っているリンドウの目の前で皮のボディスーツを脱ぎながら話かけてくる。

 

「250万?ツバキとは200万で契約してるが?」

 

「50万は私とエリンからよ。その代わり一度だけで終わりなんていやよ。今夜は寝かせないから」

 

 メッシュの防御服も脱いで全裸になってその見事な肢体を見せつけながらソファに座っているリンドウの足元に跪いてから顔を上げて言う。

 

「そういうことか」

 

 そうよという答えはリンドウを口に含んだルリから聞こえることがなかった。

 

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