第60話 兆候


 そんな風に当たり前の日常が続いていたハンター達だが、最近ハンターの仕事に支障がでる事態が起こっていた。荒野で機械獣を見かけなくなったのだ。


 今まで比較的容易に見つかっていた機械獣の姿が荒野から消えてしまい、ハンターは荒野をウロウロして探し回ってはやっと見つけた機械獣を倒す。1日1体倒したほうはマシで、大抵は1日中荒野を走り回っても全く見つけられないという日々が何日も続き始めた。


「こんな事は今までなかったでしょ? どう思っているのかリンドウの意見を聞かせてもらおうと思って」


 ハンター支部の支部長室で支部長のツバキと支部職員と一緒にソファに座っているリンドウ。地下のジムで身体を鍛えている時に端末に連絡が来てそのまま上に上がってきてる。


「支部、いや本部でもある程度予測はついているんだろう。準備はしっかりとしておいた方がいい」


「リンドウも大規模な強襲があるって見てるのね」


 ツバキの言葉に頷くリンドウ。機械獣が荒野から消えた、これから導き出される結論は1つしかない。


「問題はその規模がどれくらいだろうかということだ」


 ツバキの隣に座っている職員がリンドウに視線を送りながら言う。その職員に顔を向けると、


「あくまで俺の感覚だが、今までの普通の状態からせいぜい4割程度の増加までなら今のハンターのスタイルで対応できるだろう。5割を超えると機械獣の数の方が多くなってハンターの危険度が急激にアップする。これはあくまで機械獣が進化していないという前提だがな」


 リンドウの言葉に頷く2人を見てそして、


「嫌な感じがするんだよ。しっかりと準備しておいた方が良い気がする」


「もっと増えて、5割増しどころじゃない数が来る可能性も考えておけってこと?」


 そうだと頷く。


 支部を出たリンドウが自宅に戻ったその夜、ツバキから端末に連絡が来た。


「お昼はありがとう。あの後他のAランクのハンターにも聞いてみたの。皆同じだったわ。5割超えると厳しくなるだろうって」

 

 だからAランクなのだ。戦況を分析する能力に長けていないとAランクにはなれない。


「それで本部としちゃあどうするんだ?」


「いろいろなオプションを考えているところ。本部単独の場合や守備隊と連携した場合とかね」


「なるほど。ただ急いだ方がいいぞ、俺の勘だが」


 端末の向こうで一瞬沈黙があり、


「リンドウの勘は無視できないわね。わかった。検討のスピードを上げる」


 ツバキを始めハンター各支部からの要請もあり本部は直ちに政府、情報分析本部、そして都市防衛本部と大規模襲撃に備えた対応について協議を開始、その結果いくつかのオプションを決めて有事に備えることになった。


 そして3ヶ月後、都市国家建国以来の危機がやってくる。


 その日リンドウはD1地区の廃墟の壁を相手にでソロでスナイプの鍛錬をしていた。そしてそろそろ戻ろうかと思っていた時に、端末が鳴りだした。画面を見ると緊急通信と書いてあり、それを開けて中のメッセージを読んだリンドウはすぐに車に飛び乗ると全速力でD門に引き返していく。


 D門に戻るとその車に乗ったまま3門を超えてハンター支部の前に車を止めると支部の会議室に飛び込んでいった。中には既にリンドウ以外のランクAのハンターが全て揃っており、部屋の前には支部長のツバキと支部職員が厳しい顔をしていた。


「すまん、遅れた」


 部屋に入るなり謝るリンドウ。


「大丈夫よ。ちょうど少し前に政府や都市防衛本部とハンター本部ら関係者との最終の打ち合わせが終わって方針を確認したところ」


 そう言うとAランクハンター全員を見回して揃ったわねと言ってから


「緊急通信は見て貰っていると思うの。その後情報がアップデートされたのでそれを報告してから対応策を説明するわね。今回は事前にいくつか考えていたオプションの中で最悪のケースを想定しているオプションCになるの」


 隣にいた職員が端末を見ながらハンター達に説明する。


「D6地区に見たこともない数の大量の機械獣が現れたという一報のあと、都市防衛本部のレーダーを分析したところ、都市国家の全地区にて同じ様に多数の機械獣が現在都市国家を目指していることがわかった。その数については推定だがD地区については大型機械獣が500体以上、小型については2,500体以上の数であることがわかった」


 その数を聞いてお互い顔を見合わせるハンター。


「現在この機械獣は第6地区を通過中で、本体は足の早い機械獣と遅い獣との2つの集団に別れている。そして足が早い機械獣のここ都市国家到着予定は今から38時間後、足が遅い集団の都市国家到着予定時刻は今から52時間後になると事だ」


 そこまで報告した職員に変わり今度はツバキが説明していく。


「状況は今説明した通り。それではオプションCの内容を説明するわ。まず都市防衛隊は全ての前線基地から速やかに全員撤退する。これはあの基地を無人にすることによって機械獣のターゲットから外す狙いよ」


続けて、


「そして国民全員がこの都市国家に篭り、この城壁を砦にして機械獣を待ち受けて彼らを殲滅する。具体的には4層の城壁の上にある砲台群を使って遠距離で可能な限りの機械獣を殲滅する。これは都市防衛隊の仕事よ。そして砲台の攻撃で倒れなかった機械獣についてはハンターが4層の城壁の上から倒す」


 それが正しいやり方だろうとリンドウは聞きながら思っていた。数が多い場合には外に出向いていくと逆にやられてしまう。堅牢な都市国家に引きこもって来る敵を倒しまくる方が効率的だろうと。


 ツバキの言葉にランディが、


「ハンターったって大型や小型を倒せるのはここにいるAランクとBランクでもせいぜい20名くらいだ。言っちゃあ悪いが他のハンターじゃ相手にならない。Cランク、Dランクの奴らはもっと使えない、足手纏になるだけだ」


「ランディの言う通りよ。だから仕事を分担させるの」


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