第16話 Aランクハンター ヤナギ


 オフの間リンドウはほぼ毎日午前中はハンター支部のジムで身体を鍛え、射撃場で50発程狙撃銃を撃つという日々を繰り返している。


 この日ジムを終えて射撃場に移動すると、そこには先客がいた。リンドウを見ると手を上げてくる。


「リンドウ、久しぶりだな。ミッション以来か?」


 話かけてきたのはヤナギという男。ランクAのハンターでリンドウとも馴染みの顔だ。


「そうなるな。ほぼ毎日ここに来てたけど会わなかったな」


「俺は荒野で日銭稼ぎをしてたからな。ある程度貯まったんで外に出るのはやめてここで鍛錬と思ってさ」


 なるほどとリンドウは頷きながらヤナギが持っている銃に視線を送る。ヤナギが持っている銃は特殊だ。銃身は90センチ程。図面から引いて作った特注品でヤナギ専用の武器になっている。


 それを構えると無造作に引き金を引いた。200メートル先の標的の中心点に綺麗に命中する。


「いい腕だ」


「あんたに言われると自信になるよ」


 ヤナギはリンドウより1つ年上の24歳。ランクAになったのはほぼ同時期でD地区でも上位のランクに位置する優秀なハンターだ。


 リンドウはヤナギから離れた場所で狙撃銃を構えると立射、膝射、そして伏射でそれぞれ的の中心に命中させた。


「相変わらずあっさり撃つよな、それでいて全弾中心点に命中か」


 リンドウの射撃を見ていたヤナギはそう呟くと自分の射撃練習に戻った。そうして2人で50発程撃った同じタイミングで鍛錬を終えた時に、


「久しぶりに昼飯を一緒に食わないか?」


「いいな」


 リンドウとヤナギは支部のビルを出ると3層内にあるレストランに足を向ける。レストランは昼前ということで空いていて、奥の空いているテーブルに座ると壁に武器をかける。ここは非戦闘員もハンターも両方が共存するエリアなので他のテーブルにいる非戦闘員の人たちも武装している2人を見ても驚いたりはしない。ただ、2人の左肩にあるランクタグを見て驚くだけだ。


 頼んだ食事をしながらお互いの近況を報告したりD地区や他の地区での噂話に花を咲かせてから、ヤナギがふと思い出した様に、


「そういえばどこかの地区でBランクの機械獣が胴体に武器を装備していて遭遇時に撃ってきたらしい」


 その言葉を聞いて顔を上げるリンドウ。じっとヤナギを見つめ


「マジな話なのか?」


 ヤナギは頷き、


「ああ。ただ銃は拳銃程度でしかも撃ってきた弾はすべてあさっての方向に飛んでったという話だ」


「試作品か?」


「おそらくな」


 リンドウの言葉に頷くヤナギ。続けて


「ただ、あいつらが精度を上げて大量生産始めたら面倒なことになる」


「その通りだ」


 いずれはそうなるだろうとは思っていたが、それにしても機械獣が武器を持つと厄介なことになるな、下手したら戦闘のスタイルが変わってしまう。リンドウが思ったことを口にするとヤナギも頷いて、


「今までみたいにこっちは荒野に立って姿を晒しながらゆっくりと標的を狙うってことができなくなるな。マシンガンをメイン武器にしてる奴らは大変だろう。俺も武器を見直す必要が出るかもしれん」


 ヤナギの言葉を聞きながら一度ルリとエリンにも聞いてみるかと思ったリンドウ。


「ひょっとしたらその辺りの調査をしろっていうミッションが出されるかもしれないな」


 食事を終えて4層に戻ってからヤナギと別れたリンドウは自宅に戻ってから端末経由でルリとエリンにメッセージを送った。


 夕刻にリンドウの端末にエリンが通話をしてきて、


「メッセージを見たわよ。これ以上の話は私たちの部屋でしない?」


「わかった」


 そうしていつもの格好で狙撃銃を持ったリンドウは自宅を出て2人が住んでいるマンションに足を向ける。


 エリンとルリが住んでいるマンションはリンドウが住んでいるの場所の近くにある同じクラスの高級マンションだが2人で住んでいる分部屋数が多い。開けられたオートロックのドアを潜ってマンションに入って2人の部屋の扉を開けて中に入ると、ボディスーツを脱いでメッシュの身体保護スーツだけの2人がリンドウを出迎えた。


 メッシュスーツの下は当然だが何もつけていなくて全てが見えている格好の2人。リンドウを部屋に招き入れると、


「最近はずっとリンドウの部屋に行ってたからこっちでするのも久しぶりでしょ?」


 じっと2人の体を見ているリンドウに甘い声で囁くエリン。


「で?どっちの部屋でするんだ?」


「今日は私の部屋でお願い」


 そう言ってエリンがリンドウの手を掴んで自室に連れ込んでいく、2人のあとをルリも続いて入って扉を閉めた。


 彼女らは金蔓や他の男と”仕事”をする時も絶対に自分の家には連れ込まない。場所が特定されるのが嫌なのとプライベートと”仕事”を分けているという事らしい。いつも2人がそれぞれ自分たちでホテルの部屋を予約し、事前に盗撮器や盗聴器がないのを確かめてから仕事をしている。もちろんホテルを予約するのは彼女らだが支払いは相手の男だ。


 2人とは最初からリンドウの部屋でしていたが、ある日自分達の部屋に誘われ最初にこの部屋に来た時にリンドウが部屋では仕事はしてないんだろう?と聞くと、


「当たり前じゃない。仕事だと感じるフリをするんだけどリンドウとはいつも本気になるのよ。本気のセックスをするならホテルの部屋じゃ嫌なの」


「それと、いつも私たちは別々で仕事をしてるの。2人一緒にセックスするのはリンドウだけよ。そうなるとお互いの家の方がいろいろ便利でしょ?」

 

 エリンとルリがそう言っていたのを思い出した。


 3人で熱い時を過ごすとリビングに戻り、女性2人が食事を作ってくれ、それを食べながら仕事の話を始める。


「リンドウのメッセの内容については私たちも聞いてるの。マシンガンをメイン武器にしてる私たちにとってはいい情報じゃないわね」


 エリンの言葉に頷くリンドウ。そして


「すぐにはないだろうがいずれは全ての機械獣が武器を装備し、その武器の精度も上がってくる。今までとは戦闘スタイルが変わってくるぞ」


「ええ。だからエリンとも話しをしてて早めにメイン武器を替えようかなと思ってるの」


「具体的に何か決めてるのか?」


 口に入れたサンドイッチを胃に送り込んでジュースを飲んだリンドウが2人に顔を向けて聞く。


「ヤナギが使ってる武器なんかどうかなと思って」


「なるほど。セミオート付きのマシンガンか」


 頷く2人、


「そう。射程距離1,000メートル位でね」


「今のより300程距離を伸ばすんだな。ヤナギのあの銃の射程距離は?」


「正確には教えてくれないけど見てる感じだと1,000切るくらいかしら」


「距離が長くなると銃弾も大きくなるぞ?」


 同じ銃弾で長い距離を撃つと弾の勢いが弱くなる分命中しても与えられるダメージが減る。


「そうなの、そこのバランスなのよね」


 リンドウは2人の話を聞いていて、


「銃を替えるのは俺も賛成だ。ヤナギのタイプならフルオートで連射もできるしな。ただそう都合の良い銃があるかどうかだ」


「ねぇ、明日でもいいから一緒にサムの武器屋に行ってくれない?狙撃銃を使ってるリンドウのアドバイスも聞きたいの」


「俺は構わない。万が一なかったら図面から引かせるのか?」


「それも選択肢にいれてるの」


「金持ちの発言だな」

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