第143話 準備の合間
「リンドウが行くことになったのね」
「ああ。俺が言い出した話しだからな」
「一緒に行きたかったな」
リンドウの部屋の大きなベッドで男1人女2人が川の字になって寝ている。3人とも全裸だ。
「今回は探索がメインだ。北へのルートがあるかどうか、あればそこに何があるのかを調べるのが目的だ。エリンやルリの好きな戦闘がないかもしれないしな」
仰向けに寝ているリンドウが部屋の天井を見ながら話をしているとその視界に2人の顔が入ってきた。
「戦闘よりも2ヶ月も会えないんだよ。その間どうしたらいいのよ?」
とルリ。
「そうそう、我慢できなくなって他の男とやっちゃうかもしれないわよ」
エリンもルリの言葉に被せてくる
「帰ってきたら腰が抜けて立てない程可愛がってやるからさ、辛抱しておいてくれよ」
リンドウの言葉に、他の男としてもいいって言わなかっただけ偉いわねとルリが言い、エリンも帰ってきたら1週間は離さないからねといってようやく納得した2人。
そうして3人で熱い時を過ごしてから今は2人が作った料理を食べているリンドウ。
「絶対に何かありそうだよね」
食事をしながらルリが言うと
「間違いなく何かあるだろう、でないとアンテナが1つ北側に向いていた理由にならない」
「リンドウは思い当たる事ってあるの?」
「単純な機械獣工場じゃない気がするんだよな。これはまだ誰にも言っていないが俺は北側にある何かがAIの拠点じゃないかと考えている」
「その根拠は?」
エリンが食事の手を止めてリンドウを見つめてくる、
「消去法だな。先端工業団地は既存の核兵器開発ラインの再稼働と機械獣の生産工場、そして西の工場は新製品の開発工場。じゃあそれらはどこの指示で動いているんだという事になると未知の北側にある施設から指示が出ているとしか考えられない。そして北は都市国家から最も遠い場所にある。敵の本部が遠い場所にあるのは当然だからな」
「北にある施設がさらに遠くから指示を受けて動いているという可能性は?」
「もちろんルリが言うその可能性もある。だからいずれにしても北の探索は必要なんだよ。施設があるかないか以外にそのあたりの地形も調べたい。知らないことがあるってのは落ちつかないからな」
そう言って食事を口に運ぶと再び口を開くリンドウ。
「機械獣が進化しないでずっと同じだったら俺もここまで気にはしない。以前の機械獣ならこちらから見てもそれほど脅威じゃなかったからな。ただルリもエリンもわかるだろうがここにきてやつらの進化のスピードが上がって来ている。これ以上進化されるとこっちが追いつかなくなる日が来る気がしてな」
エリンとルリはリンドウの話を聞きながらその通りだと感じていた。機械獣の進化の速度が上がって来ている。今はまだ人間の方が優秀だろう、だが将来はわからない。飛行する機械獣が登場したり、今は安全な海で活動できる機械獣が登場したりすると機械と人間との力関係は一気に逆転する可能性もある。
結局その日も泊まった2人は翌日の昼前に満足した表情でリンドウの部屋を出ていった。
リンドウの端末に連絡が入ってきた。全ての準備が整う目処がついた。今から10日後にA地区に移動、そこで最終の打ち合わせをして翌日に出発するという内容だ。
10日後と言っても特に準備をするものもなくいつもと同じ様に過ごしているリンドウ。この日は支部の地下での鍛錬を終えると部屋で寛いで日が暮れてしばらくすると自宅を出てシモンズの店に顔を出した。
「いらっしゃい」
ローズの声にようと片手を上げて返事をして店内に入ってカウンターに座ろうとしながら店内を見ると一番奥のテーブル席に私服を来ている女性が2人座っていた。リンドウを見て挨拶してくる女。それに軽く手を上げて答えるとカウンターに座ったリンドウの前にシモンズが水を出してくる。そのシモンズを見ると、
「よく来てるのか?」
シモンズも誰のことか分かったらしく
「月に1度から2度、プライベートで来るみたいだ」
「いいじゃないかよ、憧れのキャスターが馴染みになるなんて」
「まぁな」
と満更でもない表情のシモンズ。キャスターのキャサリンのファンのシモンズなら普通の客よりもサービスしてるんだろうとは思うがそれは口に出さずにカウンター越しにシモンズとローズと差し障りのない話をしながら夕食を取る。
「リンドウは最近外に出てるの?」
ミネラルウォーターのおかわりを置いたローズが聞いてきた。
「そうでもない。週に1度出るくらいだ。あとはこっちで鍛錬してるよ。最近は奴らも大人しいからな」
「ここにくるBランクの連中も言ってたよ、最近は比較的大人しいって」
「奴らが稼げるのならそいつらに任せてもいいしな。わざわざ俺達が出張ることもないだろう」
「リンドウはもう十分にお金持ちだしね」
ローズが言ってまぁなと答えるリンドウ。そうして昔の仲間と話をしていると背中で立ち上がる気配と椅子を引く音がして
「お久しぶりですね」
キャサリンが声をかけてきた。
「そうだな。この店が気に入ったみたいじゃないか」
「ええ。落ち着いていい雰囲気なのでプライベートでちょくちょく来ているんです」
「贔屓にしてやってくれよ」
そう言うとキャサリンとその友達の2人はシモンズとローズに礼を言って店を出ていった。
「よく周りにバレないもんだぜ、人気者なんだろう?」
テレビを見ないリンドウがカウンター越しに2人に話しかけると、
「なんでも外ではサングラスとマスクをしてるらしいわよ。追っかけみたいなのがいるんだって」
「有名人ってのは大変だよな」
「あら、リンドウも有名人じゃない」
「よしてくれよ。俺は地味に生きていたいんだよ」
リンドウがローズに言うが、ローズもシモンズもまぁそれは無理だろうと否定する。店の中の客がリンドウだけになると
「ヤナギから聞いたよ、ミッションでしばらく街を出るんだって?」
「来週後半から2ヶ月かもうちょっとかかるだろう。しばらくこの店にも来られないな」
「帰ってきたら帰還祝いをしてやるよ」
「期待してるぜ」
ローズもシモンズも元Aランクハンターだ。長期のミッションがどういうものか分かっている。そして彼らは決してミッションの内容を聞いてこない。当たり前の話だがしっかりと分別があるからこそAランクハンターとしてやってこれたのだ。
シモンズの店で夕食を取ったリンドウは立ち上がると礼を言って店を出た。そうして4層の自宅に戻ろうと通りを1人で歩いていると
「リンドウさん」
振り返るとそこにはさっきシモンズの店で見た時の格好をしているキャサリンが1人で立っていた。
「帰ったんじゃなかったのか?」
近づいてきたキャサリンはサングラスにマスクとシモンズが言っていた格好のままだ。
「お友達はね。私は待ってたの」
並んで通りを歩きながら話をするキャサリン。1人で自分を待っていたということがどういうことか分からないリンドウではない。元より来るものは拒まずというのが信条だ。
「明日は?」
「おやすみなの」
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