第55話 帰還

 2人がD地区に戻ってきた数日後、エリンとルリの発案でAランクでランディとヤナギのお疲れ様会をやろうと言うことになり、1軒のレストランを貸切にし、当日10名のAランクハンターが店に集まった。ヤナギとランディが巨大廃墟での出来事をメンバーに話しするのを皆酒やジュースを飲みながら聞いている。


「それにしても守備隊ってのは銃弾を湯水の様に使えるのだけは羨ましいぜ」


 ランディがもう何杯目かの酒が入ったグラスを空けて言うと、


「武器も費用対効果無視で使えるしな」


「そうそう」


 ヤナギが言うと皆頷く。そしてその後で皆で


「でもそれでも守備隊だけは入りたくない」


 と口を揃える。


「それにしても廃墟の外からも襲ってくるって読んだのはリンドウだろう?おかげで助かったよ。C地区のケインも礼を言ってくれって言ってたぜ」

 

 ランディとヤナギがリンドウに礼を言う。

 

「やっぱりリンドウは別格なのね」

 

 サクラが言う。それに対してランディが、

 

「そうなる。確かにこいつは別格だよ。普通なら違和感を感じてもそのまま流しちまう奴が殆どだ。気のせいかとかまぁなんとかなるだろうって自分の都合の良い方に思い込むものさ。ただリンドウは違った。その違和感をを突き詰めて最後は見事に読み切ったからな」

 

 褒められたリンドウはそんな大した事ないだろうと前置きをしてから、

 

「もやもやした気持ちで戦闘たら死ぬかもしれない。そう思っていると必死になって考えるものさ。今回は間に合ってよかった」

 

 そうは言ってもさ、とエリンが

 

「リンドウに言われてみれば普段荒野で倒している機械獣の出現具合と廃墟のビルから出てきた数を比べたら釣り合いが合わないってわかる。でも言われなかったら普通なら目の前にいる敵の事しか考えない。敵の数が少なくてラッキーで終わっちゃうのよ」

 

 エリンの言葉にそうなんだよなと頷く。

 

 これはハンターとしての力量の部分じゃない、本人が持っている資質というか注意力というか、とにかく戦闘以外でのもって生まれた部分だとエリンが力説している。

 

「ところで今回の地下探索の報告は出てるのか?俺の端末にはまだ何も情報が来てないが」

 

 エリンの力説が終わったところでスティーブが聞く。

 

「まだだな。俺とランディが戻ってから支部のツバキのところに報告に行った時にツバキから聞いているのは今回の5地区でハンターの死傷者はいなかったって事だけだ。後は分らん。守備隊がどうなったのか、成果があったのか無かったのか」

 

「俺もそれ以上は知らない。噂は色々と出てるがな」

 

 目の前に置いてある酒を飲み干し、グラスを掲げて店員にお代わりを頼んだランディが続ける。

 

「リンドウは知りたい?」

 

 ルリがじっと見つめてくる。

 

「興味ないな」

 

 あっさり言うとルリがびっくりする。

 

「どういう事?巨大廃墟の探索結果に興味が無いってこと?」

 

 ルリが続けて聞いてくると、その通りだと頷いたリンドウ。そして、

 

「もういいだろう。義理は果たしたんだよ。俺達ハンターの仕事は都市国家に近づいてくる機械獣の討伐だ。それ以上でもそれ以下でもない。巨大廃墟を見つけたのがたまたま俺達ハンターだったからか成り行きで調査と守備隊の探索のサポートはしたが、これだって本来なら守備隊単独でやるべきミッションだと思ってる」

 

 皆黙って聞いている。リンドウは周囲を見渡してからはっきりと言う。

 

「大規模な調査や戦闘は元々あっち(守備隊)の仕事だ。それが今回はいろいろと義理や思惑が上の方であったんだろう。断れない事情なのか相手に貸しを作るのかは知らん。でも最終的に少しは協力するという約束をして各地区からハンターを出した。ここからはランディとヤナギとBランク30名だ。そうして2人共、そしてBランクの連中も皆無事に帰ってきた。もう十分に仕事はした。あとは守備隊で勝手にやってくれ。俺はハンターの本業に戻る。それだけだ」

 

 エリンはリンドウの言葉をじっと聞いていた。目の間に座っている精悍な顔つきをした自分より若い男。この男はいつでもそうだ。周囲の状況や流れというものに左右されずにいつも自分の立ち位置をしっかり確認する。そして彼の言う通りだ。ハンターは機械獣を倒すことを生業とする稼業だ。

 

 1人、たまに数人が組むことはあるがハンターは基本的に集団戦なんて考えていない。巨大廃墟が見つかりその中から機械獣が出てきた。そしてその探索が急務となった。普通なら自分もその流れに乗って何ができるか、そして何ができないかを考える。その思考自体がもう本来のハンターの立ち位置から逸脱している。

 

 リンドウが言ったとおりにここまで大きな話しになるともう個人のハンターの出番はない。政府を含めた上層部と都市防衛隊や情報分析本部らの専任事項となる。自分達は日常に戻る時なのだ。


 彼に言われて気が付いたエリン。他のメンバーもリンドウに言われて納得した様だ。


「リンドウの言う通りね。あとはあっちに任せましょ」


 エリンがそう言うと皆そうだな、俺たちの本来の仕事に戻ろうぜという話になった。


 そして正にリンドウと同じ考えをしている者がいた。ツバキは本部から支部長止まりというレポートを読んでいる。そこには守備隊のトンネルの探索の結果や機械獣らとの戦闘状況、そして途中からさらに奥に伸びるトンネルが複数見つかったことなどが書いてあった。


 ツバキはレポートを読み終えると本部宛の通信文を作成する。そしてその通信文の最後には、


 これ以上の探索はハンターの仕事ではない。ハンター本来の活動から大きく逸脱している。巨大廃墟から先の探索をする場合にはハンター本部としては協力すべきではないと考える。


 と書くと送信ボタンを押した。


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