第19話 新しい地区の探索 その2


 2日後の10時前にD門に出向いたリンドウ。背中に大きなリュックを背負い、ロングレンジライフルのケースをもち、狙撃銃を肩から吊るしている。門の近くには装甲車が1台、そしてその周りにエリンとルリ、そしてスーツ姿のツバキの姿があった。


 装甲車は6輪車で車輪の保護シールドに囲まれている。装甲車に近づくとそのボディを手で叩いて車の周囲を見て回る。命を預けることになる車だ。予備のタイヤや予備の燃料もしっかりとチェックする。これはいつもリンドウがやっていてもう癖になっている。


「頑丈そうだな、これならなんとかなりそうだ」


「ただ車体が重い分スピードがでないのよ」


 装甲車に満足して後部の扉を開けて狙撃銃ケースとリュックを乗せているリンドウの背後からエリンが声をかけてきた。振り返ると肩から新しい銃を下げている。リンドウは再び視線を装甲車の内部に向けた。装甲車は後部には折り畳み式のはしごがあり、天井の丸いハッチを開けると屋根の上に出ることができる仕様になっている。そして後部座席は装甲車の側面に並んでいる。そういて中を一瞥してから再びエリンに身体を向けると


「そこら辺は仕方ないな。安全性を取るかスピードを取るかだけだろう。俺はこれくらボディが硬い方が安心できる」


「リンドウにそう言ってもらえると嬉しいわ」


 いつの間にかそばに来ていたツバキきがリンドウに答える。すぐにランディもやってきた。来るなりツバキを見て


「周波数は?」


「203.7MHz」


 全員がゴーグルで周波数をセットする。


「8人乗りって話だが荷物を積むと結構場所がなくなるな」


 最後に自分の荷物を放りこんだランディ。全員揃ったところでツバキが、


「D5地区から向こうは未知の地域よ。十分に気をつけて、ミッションも大事だけど安全第一で動いて」


「支部長殿に気を使っていただいて涙がでるぜ」


 ランディが冗談を言いながら運転席に乗り込む。助手席にはルリが、そしてエリンとリンドウは開いている後部扉から車内に乗り込んでいった。


 ツバキがもう一度気をつけてと声をかけるのにリンドウが軽く手をあげて応えると後部扉のドアを閉めた装甲車がゆっくりとD門から荒野に出ていった。


「この車のスピードだとD4地区とD5地区の境目辺りまで約9時間ね」


 取り込んで早速車のレーダーを起動させて前線基地と情報をリンクさせたエリンが全員に伝える。


「まぁのんびりと行こうぜ」


 運転するランディの言葉に頷く他のメンバー。

 

 D門を出て荒野に出てもスピードはでないが気にせずに後ろの広い空間に座って強化ガラス窓越しに外を見るリンドウ。2時間ちょっと走ると左手に前線基地が見えてきた。エインがインターコムのボタンを押して


『こりらエリン、只今D地区の前線基地横を通過中。今の所予定通り』


『こちら前線基地守備隊だ。そちらの装甲車を目視している。気をつけてな』


『ありがとう』


 前線基地を過ぎてD3地区に入ると皆の表情が引き締まってくる。


「左手前方に小型機械獣2体。こちらに向かってきてるわ。距離3,000メートル」


 レーダーを見ていたエリンが声を上げると俺がやるとリンドウは狙撃銃を持ってはしごを登って装甲車の屋根の上に出た。装甲車はスピードを落として30km程度で走っている。ランデイは凸凹を避けながら上手く車を走らせている。


 ゆっくりと走る装甲車の上で膝射状態になってスコープを覗いていると、


『車を止めた方がいいか?』


 ランディの声がインターコムから流れてきた。


『いや大丈夫、気になる揺れじゃないしこのままでOKだ。ランディの運転だ。信用してるよ』


『了解』


 車の中では助手席に座っているルリが望遠鏡で近づいてくる機械獣を見ているが


「武器の有無はここからじゃわからないわね」


『距離2,000』


『OKだ。ゴーグルの表示距離と合ってる。あとはこっちでやる』


 そうして機械獣が1,200メートルになったところでリンドウの狙撃銃が火を噴いた。命中した機械獣がその場で飛び上がって動きを停止する。他の3人が感心している間に2発目を撃ったリンドウ。2発目は綺麗に機械獣の頭部を吹き飛ばした。


 車を倒した機械獣に向けて走りながら車内では、


「相変わらず化け物だな、動く車の上から1,200メートル先を1発かよ」


「普通はできないよね」


「無理だ。当たりっこない」


 そんな会話が交わされていた。そうして倒した2体の機械獣のそばに着いた装甲車。


「周囲は安全よ」


 エリンの声を聞いて3人が装甲車から降りる。リンドウは一応装甲車の屋根の上で周囲の警戒を行う。いくらレーダーで周囲が安全だと言っても警戒を止めることはない。この荒野では何が起こっても不思議ではないと知っているからだ。


「武器は装備してないみたいね」


 リンドウが倒した機械獣を見ながらエリンが言う。


「ああ。通常の機械獣だ。それにしてもこっちのは首の付け根に見事に当ててる。頭と胴体がこんなに綺麗に弾け飛ぶなんて信じられないぜ」


 そうして倒した機械獣をそのまま放置して再び車で移動を始める。リンドウも屋根から降りてきて車内の椅子に座る。


「リンドウよ、相変わらずの腕前じゃないか」


 運転しながらランディが話しかけてくる。


「動きが単純だタイプだったからな。一直線に向かってくるから的としては楽だぜ」


「そうは言うけどよ」


 ランディが言うと助手席からルリがリンドウが人間離れした腕を持ってるのって今に始まったことじゃないでしょと言い、そして


「本当にリンドウってスナイパーよね。敵にはしたくないわ」


「全くだ」


 エリンが向いに座っているリンドウを見て頷くというと他の2人も運転席と助手席で大きく頷いていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る