第146話 北へ

 翌朝A地区の門の前にには準備が整った車両群が並んでいた。燃料車には満タンの燃料が積まれ物資輸送車には弾薬と食料らが満載されている。


 4台の装甲車は全て8輪タイヤで屋根の上には盾付きの重機マシンガンが装備されていた。そしてリンドウが乗る1号車は屋根の後ろに特注のレーダーがついている。


 本部長のピート以下各支部長が見ている中でハンター達は挨拶をしてはそれぞれの車に乗り込んでいくハンター。


「気をつけてね」


「わかってる」


 ツバキと軽い挨拶を交わしたリンドウが装甲車の後ろから乗り込むと既にローラが乗り込んでいてPCをセットアップしていた。茶系の迷彩服にゴーグル、セミロングの黒い髪を後ろで1つにしている。


「よろしくな」


「こっちこそ。リンドウと同じ車なんて光栄よ」


 B地区所属のローラは前回の大規模襲撃の時にリンドウの凄さを目の前で見ておりこれがトップの中のトップなのかと感心していた。


「セットアップは終わったか?」


「今終わったところ」

 

 そう言うとPCのモニターに地図が出てきた。それを拡大表示にしていくと巨大廃墟が地図上に現れてくる。


「この情報は全車と共有できるしそれぞれの車の情報も映せるわ」


 そしてスイッチを切り替えると自分の車を中心にレーダーが探っている画面が映った。


「通常のレーダーよりも範囲が広くなってるし、3段階で探索レンジを変えることができるの」


「それは助かるな」

 

 そうしてPCの隣にある無線機を指差してもう使えるわよと言う。リンドウはゴーグルのTALKボタンをオンにすると


「こちらリンドウだ。聞こえているか?」


「感度良好だ」「クリアに聞こえるぜ」


 全員から返事を貰うと


「これから出発する。とりあえず前線基地を目指す。A門を出たところで隊形を組んでから進もう」


 そうして6台の車がゆっくりとA門から出ていった。



 門の外で隊形を組んだ6台は時速30Kmで前線基地を目指していく。都市国家から前線基地までの間にも機械獣はいるが、小型ばかりでそれらは3号車と4号車で対応する。


 1号車の中ではヤナギが運転する中、リンドウとローラがモニターに出した地図を見ながらルートを検討していた。この地図は2号車、3号車、4号車にも映し出されており、それらの車の中のハンター達と打ち合わせをする。


 物資輸送車と燃料車の助手席に座っているハンターは端末でそれを見る事ができていた。もちろんゴーグルを通じて全てのハンターが通話を聞く事ができ、また都市国家内の本部役員や支部長らはモニターを通じてこれらを見て、会話を聞くことができる。


「この巨大廃墟の東側、できたら20Kmは離れた場所を通りたい」


「となると前線基地からはこの方向に進むことになるわね」


 ローラがキーを打ち込むと地図上に線が現れる。


「ランス、スージー、この方面への探索経験はあるか?」


「A5辺りまでならな。平坦な荒野でいくつか廃墟のある他のエリアと変わらん」


「私も同じくA5辺りまでしか分からないけどランスの言う通り。車が走行するには支障はないと思う」


「じゃあこのルートで決まりだな」


 そうして朝8時過ぎに都市国家を出た6台は夕刻前に前線基地のゲートの中に入っていった。そこには既にAからEまでの5地区から派遣された装甲車が止まっていて15名のAランクハンター達がリンドウらを待っていた。



「久しぶりね」


「元気だった?」


 リンドウを見つけてエリンとルリが近づいてきた。後ろからランディも手を挙げながら近づいてくる。


「護衛組に手をあげてくれたんだってな」


 リンドウが礼を言ってから3人に言うと


「俺達3人はこの件に最初から絡んでる。今回は行かないが手伝うのは当然さ」


 ランディが言うとその通りと答えるエリンとルリ。ランディはヤナギに顔を向け、


「ヤナギなら車の運転も問題ないし大丈夫だろう」


「ランディ程じゃないけどな」


 軽口を叩きながら前線基地の広場にリンドウらがいくとそこに全員集まってきた。

 護衛組が5台で15名、そしてミッション20名。総勢35名だ。


 その中央でリンドウが説明をしていく。


「皆の端末に映っているルートで進む。巨大廃墟から20Km東を通って北上してそれから北西に進路を取る予定だ。護衛組は巨大廃墟の北東20Kmまで俺たちを護衛してくれ。それを過ぎたら戻ってくれて構わない」 


 リンドウの言葉に頷く護衛組の連中。


「明日はおそらくこの辺りの廃墟で野営になるだろう。そして翌日はこの辺りだ」


 リンドウが言う場所を端末で確認するメンバー。護衛組の1人が


「野営の時の見張りは俺達護衛組でやる。本隊はゆっくりと休んでくれ」


「いいのか?」


「リンドウらが来る前に話しをしたんだよ。こっちは問題ない」


「助かる」


 そう言ってから


「巨大廃墟までの途中で戦闘があった場合には基本護衛組で対応をお願いしたい。こちらは足が遅いしな」


 そうして明日からの配置を決めていく。


 1号車の前3Kmを2台が先行。そして車隊の左側の外側に2台を配置。右側の外側に1台を配置することにする。


「1号車の探索レーダーをリンクさせてくれ」


 そう言うと護衛組の連中がその場でどの車がどこに配置するかを決めていった。ランディらは左側の外側になる。


 打ち合わせが終わると食事をして体を休めるメンバー。こう言う場合はどうしても地区ごとに集まりがちになる。気心のしれている連中といるほうがリラックスできるという理由だ。リンドはヤナギ、ランディ、エリン、ルリらと固まって座っている。


「前線基地の中だからリラックスできるな」


「今夜は守備隊に頑張ってもらって俺達はゆっくり休もうぜ」


 ヤナギとランディのやりとりを聞いている他のハンター。ヤナギが、


「守備隊で思い出したけど、港から出た奴らはそろそろ上陸する頃じゃないか」


「そうだな」


「これで西の工場が破壊できればあとはリンドウらが行く北だけになるね」


 ルリの言葉に大きく頷くリンドウ。その後はリンドウのTV出演の話になった。周囲のハンター達も集まってきてその話で盛り上がる。リンドウはやめてくれと内心では思っていたがこの話題で皆のコミュニケーションが深まるならと黙って聞いていた。

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