第98話 シモンズの酒場にて
「ウィリアムズとワシントン、二人ともいい奴だった」
カウンターに座っているリンドウの前に薄い水割りのお代わりを置いてシモンズがリンドウを見る。隣からローズも、
「昨日まで元気だった仲間が突然いなくなる。わかっていても辛いわね」
「奴らもAランクで仲間だったしな」
二人の話にリンドウが答えながらグラスを口に運ぶ。シモンズの店はいつも落ち着いていて、きている客もそこそこいるのだが皆静かに飲んでいる。
「それで欠員はどうするんだ?」
リンドウは聞いてきたシモンズと同じ様に自分を見つめているローズを交互に見て
「ツバキによると急いでBランクから昇格させる気はハンター支部としては無いらしい。当面は8名でやってくれって言われたよ」
「昇格させたいハンターがいないんだろうか?」
シモンズが独り言の様に呟くと、
「どうだかな。俺はBランクのハンターに詳しくないからそのあたりはわからない。ランディあたりに聞いた方が良い情報を持ってるかもしれないぜ」
「そうね。ランディならBランクと結構飲んでるし」
「ただ慌ててAランクに上げてまた事故があったら大変だ。今度はツバキも慎重になるだろう」
リンドウの言葉にまぁそうなるわなと頷く二人。
この話題はここで終わり、今度は最近の4層の出来事についてリンドウがシモンズとローズから聞く立場になった。
酒場はいろんな情報が集まりやすい場所の1つだ。リンドウはほとんど出歩かないので巷の噂やホットなニュースには正直疎い。
娼館で働いている女性を取り合って店の中でBランク同士が殴りあいの喧嘩したとかWEB TVで有名な女性キャスターがD地区の4層のレストランにお忍びで来ていたとか。ローズが話している横から
「リンドウはテレビなんて見ないんだろ?」
シモンズが笑いながら聞いてくる。
「ああ、ほとんど見ないな。だからローズが言ってるのが誰のことだか見当もつかない」
都市国家ではテレビはインターネットテレビで一般家庭ではそれを大型モニターに映してみるのが一般的だ。ちなみにテレビ局は2局あり、国営と民間がそれぞれ24時間放送している。
「民間の放送局の夜のニュース番組のキャスターで美人ですごく人気があるのよ」
ローズが一生懸命話ししてくれるがそのキャスターの顔も知らないリンドウにとっては全くピンとこないだ。彼女の”熱い”話が終わると、
「そのキャスターとやらもよくある物見遊山で4層にやってきただけじゃないのか?」
あっさりと言うリンドウ。
4層はハンターの街と言われるだけあった他の層とは雰囲気が異なる。武器を持っているハンターがそこらじゅうをウロウロしているし、そのハンターの財布を狙っているレストランや飲み屋は大抵派手なネオンでPRしている。娼館もあれば武器屋も防具屋もある。刺激的な空気を味わうにはもってこいの場所だ。
そんな4層で食事をしたり酒を飲んだりして次の日に職場でその事を自慢げに語る非戦闘員がいることはリンドウも知っている。
「俺の隣の席にマシンガンを持ってるハンター達が飲んでてさ、途中からそいつらと意気投合して一緒に飲んで仲良くなってきたぜ」といった様な話を自慢げにする訳だ。
リンドウはそう言う場所にはほとんど顔を出さないので実際に目にしたことはないが非戦闘員が酒場やレストランにきているという話は聞いたことがあった。
「まぁ、そうだろうな。普段は2層あたりに住んでお洒落なレストランで飯を食ってて、たまには場所を変えて4層にでも行ってみるかという程度だろう」
シモンズもリンドウの言葉に同意して言う。
「結構じゃないか。そうやって人が来れば店も儲かる。お前さん達ももっとアピールしたらどうだい?客が増えるんじゃないの?」
リンドウの言葉には
「ごめんだね。俺もローズも今の客層で十分満足してる。ハンターが来てくれてここで疲れを取るためにゆっくりと酒を飲んでくれるのが一番なのさ」
と即答するシモンズ。
確かに静かに飲んでいるが客は皆ハンターだ。左肩にはBのパッチが多い。そしてBランクのハンターにとってはカウンターに座っているAランクのリンドウの事を知らない者はいない。かといって話かけてくるわけでもなく適度な距離感を持っているこの店の雰囲気はリンドウも気に入っていた。
その後もしばらくカウンター越しにシモンズとローズと話をしたリンドウがそろそろ帰ろうかと思っていた時に店の扉が開いてサクラとマリーが店に入ってきた。
リンドウを見つけると近づいてきてリンドウが座っている後ろから手をリンドウの肩に置いて、
「来てたんだ」
「ああ、そろそろ帰ろうかと思っていたところさ」
マリーの言葉にそう言うとサクラが
「ちょうどよかった。ねぇ明日か明後日に一緒に荒野に出てくれない?」
リンドウを見ながら行ってくる。リンドウは振り返ると立ったままでいる二人を交互に見て
「わかった。明日の朝9時にD門だ。それからD5まで行くぞ」
その言葉に頷く二人。リンドウが立ち上がると二人がシモンズに
「来て早々にごめんなさいね。明日の朝からリンドウと荒野に行くから今日はこのまま帰る」
マリーが言うと
「気にしないで。今のやりとりと聞いていたから。またゆっくり来て」
「たっぷりとリンドウにしごいて貰えよ」
シモンズの言葉に大きく頷く二人。
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