第121話 インタビュー その4

リンドウは普段からほとんどTVを見ないのでいつ放送されるかとか聞かなかったし興味もなかったが多くのハンター達は後日TVで放送されたリンドウのインタビューを見た。


 TVでの放映直後からリンドの端末には多数のメールが入ってきた。何事かと見て初めて放映されたのだとわかったリンドウ。D地区のハンターはもちろん、以前一緒に仕事をしたC地区や他の地区のハンターからもメールが来ている。総じてリンドウのインタビューに好意的な印象を持ったという内容だ。


 エリン、ルリ、ツバキ、サクラ、マリーそしてマヤからはメッセージと同時に電話が入ってきた。


「TV見たわ。すごく格好よかったわよ」


 ツバキ以外の女は皆こう言ってくれた。ツバキは支部長の立場からか


「守秘義務を守ってくれてありがとう。リンドウなら大丈夫だとは思ってたけど」


 と言ってから


「これでまたリンドウのファンの女性が増えるわね」


「んなことないだろう」


「そうかしら」


 と意味深に言われる。リンドウは多数のメールに一つずつお礼の返事を打ったがそれだけでぐったりしてしまう。


 元々D地区の4層ではリンドウの顔と名前は売れていて知らない奴がいない程だったので放送されても以前とほとんど代わりはなかった。そして3層はハンター支部に顔を出す程度の頻度で普段からあまり3層には出歩かない。2層、1層についてほとんど行ったことがない程だ。従って3層や2層で話題になったところでリンドウ本人にはなんの影響もなく放送後も普段通りの生活を送っていた。


 ただリンドウの名前と実績だけを知っていたハンター、特にF地区からJ地区のハンター達はこの放送をこれがハンターの中のハンター、1万人いるハンターの頂点に立つ男なのかという目で見ていた。


 画面越しに見てもどっしりとして落ち着いている。表情をほとんど変えず不要なことは一切話さない。淡々と話しをしているがその内容はハンターならわかる、いくつもの死線をくぐり抜けてきたものが持つ雰囲気。それが画面の向こうから伝わってくる。



 TV放送があった日から数日後、リンドウがシモンズの店に顔を出しカウンターに座るなりローズと二人からTVを見たよと言われる。前に置かれた薄い水割りの入っているグラスを口に運ぶとシモンズが早速話しかけてくる。


「以前人気キャスターがお忍びで4層に来たという話をしたのを覚えてるか?」


「ああ」


「その人気キャスターってのがリンドウにインタビューした彼女だよ」


「綺麗だったでしょ?」


 シモンズが言うとローズも横から顔を突き出してくる。


「あのときシモンズが言っていたのが彼女だったのか。確かに美人だったな」


 それよりもリンドウはこれほどまでに多くの人がTVを見ているのかと逆にびっくりしたぜと言うと


「彼女、キャサリンが司会を務める番組は人気があって見てる奴が多いのさ。それに放送前からTVでハンターとのインタビュー番組をやるって告知してたからな。人から聞い話だがリンドウのインタビューを流した番組はとんでもない視聴率だったらしいぜ」


 リンドウはシモンズが作ってくれた夜食と薄い酒を飲みながらカウンター越しに話をする。二人ともリンドウのインタビューの内容よりも相手をしていたキャスターの話しばかりだ。


 しばらくシモンズの熱弁を聞いていて


「シモンズがそこまでミーハーだとは知らなかったぜ」


 リンドウが茶化していうと、隣からローズが


「そうなのよ。この人わたしに感化されてキャサリンのファンになっちゃって彼女が出る番組は全部録画してるのよ」


 シモンズはそうなんだよと言い、


「下手な女優より美人、そう思わないかい?」


「まぁな」


 テレビを見ないリンドウに女優の名前や顔がわかるわけもなく、シモンズの言葉に苦笑して答えるだけだった。



 大規模襲撃が終わってしばらくすると荒野には普段通りの数の機械獣が現れだし、ハンター達はランクに応じたエリアでその討伐をして金を稼ぐ日々が戻ってきて、それに伴って各地区のハンター支部にも日常が戻ってきた。


 ツバキはようやく落ち着いた支部長室で最近ハンター達、特にBランク、Cランクのハンターの戦い方が変わってきたと職員から報告を受けている。報告する職員曰く、


 リンドウがTVで言っていた物陰に隠れて5体倒す奴の方が優秀だという発言がBランク以下のハンターには響いたらしく無茶をするハンターが大幅に減ってきているらしい。


「ハンターの中で常にトップに君臨しているリンドウの言葉は重いってことね」


 その通りと頷く職員。


「やっぱりAランクのトップハンターの言葉には耳を傾ける様です。これはD地区のみならず他の地区でも同様だとの報告が来ています」


 報告を聞きながら改めてAランクのハンターが他のハンターに与える影響力の大きさを認識するツバキだった。普段から支部からはくれぐれも無理をしないという注意喚起はしているがまともに聞いているハンターが少なく事故の報告が毎日の様に支部から本部に上がっていたが、リンドウがTVに出て以来死亡報告の件数が減ったという事実はハンターの中でのAランクの存在がいかに大きいかを改めて知らしめたことになる。


 それともう一つと職員が言うにはTV放送後にハンターになりたいという希望者の数が増えているということだ。これについてはツバキも本部からのレポートで見ていたので知っていた。


「希望者が増えるのはありがたいけど適正を見て判断しないと後で困るのは当人達なのよね。リンドウがちゃんとテレビで言っていてくれてたんだけど」


 格好いいからとか金が稼げるとかいう理由でハンターになりたい人は従来よりいたが今回リンドウがハンターの格好をしてTVに映り美人キャスター相手にトークをしたことがきっかけで更に希望者が増えたということだろうが、そんな動機でハンターに憧れる一般人はほとんどが生存率が5年で60%だという事実には注目しない。


 ハンター本部としても新規者は歓迎するがその採用については従来から厳しい基準を設けており適正が合わない人は採用しないという方針を打ち出している。この方針が変わらない限り採用希望者が増えても実際採用される数、そしてその質の低下はないだろう。


「採用に関しては本部が一括で管理してるから彼らに任せましょう。私たちは支部所属のハンターの管理に注力しましょう」

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