第76話 都市国家防衛隊 探索に出る その2

 ハンター達がそれぞれの日常を過ごしている頃、都市国家の3層の南にある入江には奇妙な形の船が停泊していた。平べったい船体の前部に小さな艦橋部分があり後部はトラックの荷台の様に平らな床になっている。そうして艦尾にはまるで塀の様に2枚の鉄の板が船体から垂直に上に伸びている。その長さは10メートル近くある。


 その奇妙は形をした船は関係者の見守る中でゆっくりとその背後の2枚の鉄板を後ろに倒していく。そうすると入江の砂浜に鉄板がどすんと着地した。


 すぐに入江に装甲車が1台近づいてきた。その装甲車は敷地内で方向を変えるとバックしたまま着地した2枚の鉄板の上を鉄板から落ちないに慎重に走って船の上に乗る。装甲車が船に乗ると直ちに都市防衛隊の兵士がシートを装甲車にかけて塩水から装甲車を守る様にする。シートをかけ終わり作業していた兵士が船から離れると砂浜に着地していた大きな鉄板がゆっくりと上に動いて船と垂直になったところでその動きを止めた。


 全ての準備が終わると作業を見ていた1人の責任者風の男がマイクを持つと


「気をつけて行ってこい。今回は探索が目的だ。戦闘行為は可能な限り避ける方向で頼む」


「了解。これより出発します」


 端末から声が聞こえ、すぐに船はゆっくりと入江を出ていった。装甲車を積みできるだけ砂浜近くまで近づける様に設計されたこの船は吃水は浅い代わりに速度が出ない。後部に重い鉄板を2枚装備しているので安定性も決して良くはない。それでも時速20Km、11ノット程度のスピードでゆっくりと波をかき分けて定められた上陸地点に向かって進んでいく。


 船の中には9名の都市防衛隊の兵隊が乗っていた。3名は船の担当で上陸するのは6名だ。最初から目的地が決まっているので途中で停泊することもなく昼夜を問わず海岸線に沿って進んでいき、入江を出てから20日後に目的地の砂浜に到着した。


 船は砂浜の沖合でゆっくりと回頭すると今度はバックから微速で砂浜に近づいていく。そうして船側からでも海底が見えるほど浜辺に寄ったところで船を止める。浜辺に近づいていた時からドローンを飛ばしていた兵士から


「近くに敵影無し」


 その報告を受けると船尾の2枚の鉄板がゆっくりと降りてその先端が砂浜の上に落ちた。装甲車が慎重に前進して鉄板の上を進んでその車体を砂浜に移動させると再び鉄板がゆっくりと上がっていく。


「輸送船はこちらから指示するまでこの沖合で待機。残りは装甲車で出発だ」


 その声で船はゆっくりと砂浜から離れていき、装甲車に乗り込んだ兵士はそのまま砂浜から荒野に向かっていった。


 装甲車に乗り込んだ都市防衛隊員6名は浜辺を出ると荒野に進み出たが1時間程走るとすぐに全員が気がついた。この地区は荒野とはいえ起伏が大きいのだ。都市国家周辺や巨大廃墟のあたりまでは荒野とはいえほとんど起伏がなく遠くまで見通せることができるが、この辺りは起伏が連なっていて遠方が見えない。ゆっくりと起伏を上りその起伏の上から前方を見るがそう遠くないところにまた起伏があってその先が見えない状態だ。


 装甲車は周囲を警戒しながら当初の速度以下で真っ直ぐに東に進み、それから南寄りに進路を変えて先端技術工業団地があるであろう場所を目指していく。適宜装甲車から都市防衛本部及び沖合で停泊している輸送船に連絡が入ってくる。都市防衛本部からも急がずに慎重に動けとの指示がありその指示に従って装甲車を走らせること6日目、大きな起伏を上り切った装甲車の視界の先に工業団地が見えてきた。大きな起伏の先は広大な荒野が広がっておりその中に工業団地が見える。外から見る限りでは屋根は所々崩れて無くなってはいるがそれ以外は大きな破損は見られない。周囲の安全を確認してから装甲車を降りて起伏の上から望遠鏡を覗いていた探索部隊の責任者が


『こちら探索部隊。目的地と思われる工業団地を発見。距離約10km』


『了解。装甲車はその位置で待機。ドローンを飛ばせ』


 装甲車から2基のドローンが飛び出して工業団地に向かっていく。その映像は装甲車経由でリアルタイムで都市防衛本部と情報分析本部にも送られていた。


 ドローン2基は高い高度で工業団地に近づくと左右に分かれてそれぞれの方向からドローン下部のカメラで工業団地を撮影していく。途中ですれ違うとそのまま進んでまずは地上200メートルの上空から工業団地を撮影していった。工業団地は屋根が所々崩落して上からでも中が丸見えになっている場所がありその場所はドローンを止めて時には高度を下げて工業団地に近づいてズームインして詳細に撮影する。


 そうして上からの撮影が終わると今度は工業団地から離れると高度を下げて地上10メートル程の高度まで下がるとドローン側面につけたカメラで横から撮影していく。2基のドローンは工業団地から約1,000メートル、地上から10メートル程離れたところを飛んで撮影している動画を装甲車に送ってきていた。壁面は逆にほとんど崩壊しており速度を落としたドローンが工業団地を撮影していたが画面に機械獣が現れるとそこでドローンを止める。


 そこには次々と作り出されては荒野に出てくる機械獣が映っていた。ドローンで見る限りは大型、小型とラインが異なっている様だ。それに大型、小型も四つ足、蜘蛛型があり全部で4つの生産ラインがあるのが見えた。そして蜘蛛型の大型には15体に1体の割合で背中にマシンガンが装備されている。


『ドローン1を上げろ、マシンガンタイプの機械獣は700で撃ってくるぞ』


 緊迫した声が本部から聞こえてきた。すぐに1基のドローンは距離を離して上空に上がり安全な距離から撮影を続けた。もう1基のドローンは工業団地の北側、装甲車がいる側の外側を高度10メートルでゆっくりと飛行しながら撮影を続けている。


『ドローン2の速度を落として。そしてできる限り近づいてズームにしてゆっくりと撮影してくれ』


 言われた通りに速度をさらに落としたドローンが工業団地から200メートルの距離まで近づいてそして北側から東側をズームイン状態で撮影していく。ドローン1は上空から次々と工場を出ていく機械獣の群れを撮影していた。


『最後にもう一度上から撮影してくれ。それから工業団地の周囲を飛んでくれ。それで探索は終了だ』


 言われた通りに再度上空からその全景を撮影し、そうしてズームアウトして上空から工業団地の全景及びその周辺の地形を撮影した2基のドローンはそのまま装甲車に戻っていき、ドローンを回収した装甲車は来た道を引き返して船の待つ入江に向かった。


 都市防衛隊探索部隊が工業団地で撮影した画像はすぐに情報分析本部と政府に提出された、そうして探索部隊が無事に都市国家に戻ってくると実際に現地に行った6名の隊員に情報分析本部がヒアリングを行い。その時の状況などを聴取した。


 海から出ていった探索隊が戻ってきたことはそう時間をかけずに都市国家の中にも広がっていった。一般の市民の中にはその探索結果を推測して話す者も多くいたが、ハンターに取っては探索の結果よりも日々機械獣を相手にすることで忙しかった。探索自体が都市国家防衛隊の仕事なのだ。ハンターには関係ないと考えている者がほとんどだ。

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