第52話 違和感の原因


 C組が出発してから12日後、D門には2週間で交代するD組のハンター達が集まっている。ヤナギとランディがそれぞれのチームのBランクハンター達と打ち合わせをし、そして車両や装備、食料品等の確認等忙しそうに動いているのを少し離れた場所からリンドウが見てた。

 

「Bランクもベテランになるとそれなりの装備を持ってるな。これなら何とかなるんじゃないか?」

 

 シモンズが彼らの準備を見ながら声を掛けてきた。隣にはフィアンセのローズが一緒だ。

 

「ああ。悪くないな。今回のミッションが終わったらAランクに昇格する奴が何名か出るかもしれないな」

 

 同じ様にD門を見ながらリンドウが答えるがその顔は冴えない。何か大事なことを忘れている。それが何かがわからない、そんなスッキリしない喉に何かが引っ掛かっているきもちの悪い感じがここ数日続いていた。

 

「2週間か、ずっと緊張していたら身が持たない。気持ちの切り替えの上手い奴じゃないとしんどいぜ」

 

 スティーブが近づいて来て言う。手には今日も大型マシンガンを持っている。こいつは四六時中俺と一緒さと普段から言っている通りだ。流石に弾倉は外して肩から掛けているが。

 

「それにしても現地はどうなってるんだろう。皆何か聞いてるか?」

 

「いや全然。何も連絡が無いってことはそれなりに順調なんじゃないか?少なくともハンターには大きな問題は無いってことだろう」


 シモンズがスティーブに答えている。


 リンドウは2人のやりとりを半ばうわの空で聞いていた。準備が終わった様だ。リンドウはランディとヤナギに近づいていく。近付いてきたリンドウを見つけた2人。

 

「何か情報は入ってるのか?」

 

「ツバキの話しだと少なくとも俺たちの担当の地区は地上は静かな様だ」

 

 リンドウの問いにランディが答え、

 

「ケインらからも特に異常はないという連絡が来てるらしい。まぁ簡単なミッションだろう」

 

「そうか。ならとりあえずは安心か」

 

 リンドウはそう言いながら今のランディが言った地上は静かだという言葉に引っかかっていた。そう静かだから?だから何だ?何かが出そうで出ないまどろっこしい感じだ。ただその内心は表に出さずに気をつけてなと二人に声を掛ける。

 

「じゃあ行ってくる」

 

 ランディがそう言って装甲車の運転席に乗り込むと装甲車を先頭にトラックが続き、Dチームが巨大廃墟を目指して荒野に出ていった。その出発を見送っているとリンドウと呼ぶ声がした。

 

「何か難しい顔してるわよ」

 

 Dチームを見送ったスーツ姿のツバキが声を掛けてくる。リンドウはツバキに身体を向けると、

 

「ああ、なんとなくもやもやしてるんだ。何か大事なことを、すごく大事な事が思い出せない。ここ数日そんな感じが続いてるんだよ」

 

「もやもやした感じ?」


「ああ、さっきランディが言った地上は静かだという言葉で何か出そうになったんだけどな」

 

 そう言ってうううと言いながら頭を掻いていたリンドウは急に顔を上げそれだ!静かじゃおかしいんだ。と思わず大きい声を出す。そして


「そう。それだ!何かしっくりしない。最近ずっとこんな感覚だった。もやもやとしていた不快だったその理由が今はっきりした。すっきりしたぞ。静かすぎるんだよ。そうだ、数が合わないんだ」


 1人で話して1人で納得するリンドウにびっくりする周囲のハンター達。ツバキはそのリンドウの様子を見て人が多いD門から少し離れた場所に移動する様に言う。リンドウと一緒にスティーブやシモンズ、ローズもやってきた。5人で固まるとリンドウが口を開いた。その顔はさっきまでと違ってすっきりしている。


「何かわかった見たいね、聞かせて」


 ツバキに頷くと

 

「ここ数日の間、俺の中ではなんか不自然な、もやもや感覚がずっと続いていた。やっとそれが何だったかたった今分かったよ、ちくしょう。もっと早くから分かってたら今回本部でミッションを決定する前に違う対応を検討できた筈なんだよな」

 

 リンドウは自分が馬鹿だ、何でこんな事に気がつかなかったんだろうと独り言を言って、そうして改めて周りを見てから、すまんすまんと前置きし、

 

「今まで俺達ハンターは何千体、いや何万体という機械獣を倒してきている」


 と話を始める。突然のリンドウの言葉にびっくりするも、その言葉に頷く他の4人。

 

「そいつらが全部あの巨大廃墟から出てきていたとは思えないんだ」

 

「その根拠は?」

 

 とリンドウを見つめてくるツバキ。その視線に応えて、

 

「前回探索した際の機械獣の地下から地上への現れ方だな。数が少なすぎる。もっと多くあるいはもっと頻繁に地上に出てこないと俺達が討伐している数と合わないんだ」

 

「なるほど。言われてみればそうだ。俺とリンドウが巨大廃墟に行った時に倒した程度の数じゃ全然少ない。釣り合わない」

 

 スティーブがリンドウの意見をフォローする。リンドウは頷いてから

 

「そう、それだ!まさに釣り合わないんだ。廃墟のビルから出る機械獣の一度の出現数というのは俺達は実際見ている。でもそれじゃあハンター達の倒している機械獣の数と全然合わないんだ。少なすぎるんだ。それから推測すると巨大廃墟以外にも機械獣を送り出してる場所があるはずだ。それがどこかは不明だが恐らく巨大廃墟の更に奥だろう。手前側は俺達ハンターがあるい程度探索してそれらしきのが無いのは調べてるからな」


 リンドウは言葉にしながら自分の頭の中を整理していく。 

 リンドウの話を聞いているツバキはそれと今回の彼らのミッションとの関連は?と聞いてくる。頭の中を整理したリンドウ。

 

「今滞在している組か、あるいは今出て行った組かどっちかの組かあるいは両方の組が廃墟の外側から大量の機械獣の襲撃を受けるかもしれない」

 

「つまり以前から巨大廃墟の中からではなくその外からも機械獣は現れていて、それらが全てこの都市国家を目指している。その更に遠くから来て都市国家を目指す機械獣の集団が今回はその途中で巨大廃墟にいるハンターや守備隊を見つけて襲い掛かってくる可能性があると?」

 

 リンドウが言いたかったことをツバキが端的に上手くまとめてくれた。その通りだと大きく頷くリンドウ。そうでないと数が合わないんだよ、と言う。


 リンドウの話を聞いたツバキは瞬時に全てを理解し、その内容に納得した。

 

「分かったわ。リンドウが言うより私が言った方がいいでしょう。C地区のアズミ支部長とも相談してC,Dの両方のチームに伝えるわ。恐らくだけど現地にいるハンター達も廃墟に向かって人を多く割いているでしょうから。それと本部にも懸念事項として伝えておく。本部経由で各支部に連絡してもらうわ」

 

「おそらく間違いないとは思うけどあくまで俺の意見だ。実際には何もないかもしれないぜ?」

 

「それならそれでいいじゃない。何もないのが良いのに決まってる。でも懸念があるならしっかりと伝える。それが私達支部の仕事よ」

 

 そう言うとツバキは直ぐに連絡すると言ってその場から支部に向かっていった。自分が納得できる理由であれがそれを支持して即断するのがツバキの良いところだ。急ぎ足で去っていくツバキを見る4人のハンター達。

 

「ツバキが俺たちの支部長でよかったぜ」

 

「全くだ」

 

 スティーブとシモンズ。

 

「リンドウはその外から機械獣が襲ってくると見てるんでしょ?」

 

 ローズ。

 

「もちろんだ。今ツバキと話しながら確信したよ。彼女には何もないかもしれないとは言ったけれども必ず機械獣は廃墟の外から現れてハンターを襲ってくる」

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