第119話 インタビュー その2

 取材当日、リンドウはいつもの迷彩服、その中には身体保護スーツを着た格好で狙撃銃を肩から吊るし3層にある大きなホテルに向かっていた。


 リンドウが取材を受けると回答し、本部からTV局に話しをすると取材は3層にあるホテルの部屋で行い、リンドウには普段の戦闘服できて欲しいとのリクエストが来た。


 指定された時間にリンドウがホテルのドアを開けて大きなロビーにはいるとすぐに2人の男性が近づいてきた。TV局の局員らだ。


「リンドウさんですね、お待ちしていました」


 そう言うとリンドウと一緒にエレベーターに乗せると最上階にあるスイートルームの一室に案内する。迷彩服姿で来いというのは人間違いをしないためでもあった。


 部屋に入るとそこはすごく広いリビングと奥の寝室の2部屋ある部屋で、そこのリビングで取材をするらしい。部屋にはすでにカメラや照明器具がセットされていてその間を忙しそうにTV局のスタッフが動き回っている。


 スタッフはほとんどが動きやすいズボンにシャツという格好だが一人だけスーツに身を包んでいる女がいた。淡いピンクの膝丈のタイトスカートにスーツ、ジャケットの中は白のブラウスで誰がみてもいい女というほどの美形でスタイルの良い女性だ。肩までの髪は軽くウエーブがかかってやや茶色で。黒の瞳はくりっとしていて綺麗な二重瞼になっている。


 リンドウと目が合うとその女性が近づいてきて、


「リンドウさんですね、キャサリンといいます今日はよろしくお願いします」


「リンドウだ、よろしく」


 短く答えるリンドウ。彼にとってはこんな取材は一刻も早く終わらせたいと思っているので目の前にいい女がいてもぶっきらぼうな発言になる。


 一方キャサリンはリンドウが部屋に入ってきた時から迷彩服を着て大きな狙撃銃を肩からさげている彼を見ていた。事前の情報では都市国家にいる1万人ほどのハンターの中でAランクは1%程の約100人。その100人のAランクハンターの中でもNo.1にランクするハンター。つまりハンターの中で最高のハンターだと。


 会う前ににはトップランクのハンターということでマッチョ体型でがさつな男を想像していたが、実際に見ると想像とは全く違っていた。


 迷彩服を来ている男は20代半ばの歳だろう。がっしりとした引き締まった身体に精悍な顔付きをしており表情がほとんど変わらない。落ち着いている。深くて底が見えない様な黒い瞳、無精髭が精悍さを増すアクセントになっている。そして黙っていてもその場にいるだけで圧倒的な存在感を放っている。修羅場を潜って来ている男というのはこうなるのか、過去いろんな人にインタビューをしてきたが、大抵の取材対象者は初めてのTV撮影現場ということで緊張した表情だったり、キョロキョロしたり、あるいは男性なら自分を性の対象として見てるかの如くいやらしい視線を送ってくる者が多かった。


 目の前の男は慌ただしく用意を進めている部屋の中を見ながらもどっしりと構えている。今まで取材してきた人、そして同じTV局で働いている局員の中にもいなかったタイプの男だ。


 迷彩服も板についている。2層や3層ではファッションで着ている非戦闘員もいるが目の前の男は文字通りの戦闘服を普通に着こなしている。そしてその肩にはAと書かれたタグが貼り付けてある。都市国家に住んでいる人なら誰もが知っているハンターのランクタグだ。迷彩服を着慣れているのがわかるのと同じ様に肩から下げている狙撃銃も使い込まれているのが一眼でわかる。


 準備ができると照明が付き、部屋に用意された椅子に座ったリンドウ。


 まず最初にキャサリンがカメラに向かってハンターの仕事やランクについて語る。それをじっと聞いているリンドウ。キャサリンはハンターという職業やランクについて説明した後に、


「今日のインタビューのお相手は1万人強いるハンターの中でわずか1%、100名程しかいないAランクハンター、そしてその中でもトップクラスのハンターと言われているリンドウさんです」


 そうしてカメラに向かっての語りかけが終わるとキャサリンがリンドウに向き直りよろしくお願いしますという言葉からインタビューが始まった。


 事前にハンター本部よりはミッションについては守秘義務があるので答えられないと通達が出ているがTV局からしてみればそれを百も承知の上でギリギリの、そして時には一線を踏み越えた質問をしてくる。口の軽い相手ならぽろっと話すことがあるのを知っているからだ。


 ただ目の前のハンターは違っていた。2度に渡る大規模襲撃について聞いても


「悪いが戦闘の詳細については答えることは出来ない」


 と短く言う。


「ただ噂ではこうなっているという話ですが?」


 キャサリンが誘導して聞いてくるが首を小さく横に振り


「俺は知らないな。そしてその噂って奴を肯定する気も否定する気もない」


 椅子に座って足を組み、両手をお腹の上で組んでじっとしたままつっけんどんに答えていくリンドウ。そして続けて


「TV局やそれを見ている視聴者の人たちは俺たちの仕事の内容を詳しく知りたいんだろうが守秘義務があって質問の全てには答えられない。どうしても知りたければハンターになるんだな。なれば全てを理解できる」


 インタビュー当初から全く表情を変えずに話をするリンドウ。緊張もしてない、気負っているわけでもない。もちろん自分を高く売り込んでることもない。全てが淡々としている。カメラはリンドウを正面から、そして時には横顔を撮影している。迷彩服の左肩にあるAランクのタグもカメラに撮られていた。


「インタビューしていても全く表情というか仕草が変わらないんですがこれも機械獣との戦闘で培わられたものですか?」


 しばらくのやり取りのあと、キャサリンが聞いてきた。


「荒野で機械獣を相手にしていると、目の前に突然現れたりこちらが予測していた行動と機械獣が違う行動をとることがある。常に冷静に、そして素早く目の前の事象に対処しないと生き残れない。そういう意味では今言った様に戦闘で培われたとも言える」


「なるほど。ところで都市国家内にいるときのオフ、プライベートはどう過ごしていらっしゃるんですか?」


 質問をしながらキャサリンは目の前のはンター、それも最高位のハンターであるリンドウという男に興味が湧いてきていた。


「ハンターに勤務時間はない。仕事の制約もない。本部から支部経由でミッションが来てそれをこなすか、あるいは自ら荒野に出てそこらにいる機械獣を倒して生計を立てている。全てが自己責任だ。それには時間管理も含まれている。都市国家の中にいるときに酒を飲もうが、遊びに行こうが全て自由だ、ずっと都市国家内にいてもいいし、ずっと外にいてもいい。誰も何も言わない」


 わざと一般論として回答するリンドウ。


「なるほど。それでリンドウさんは?」


 キャサリンはリンドウ個人のプライベートの時間の過ごし方を聞いてくる。


「いろいろあるがプライベートなので言いたくない」


 そう言ってから続けて、


「プライベートの時間の過ごし方は人それぞれだ。制約もない。ただ言えることは今日は生きて帰ってこられた。だが明日は分からないってことだけだ。ハンターをやっている連中は皆それを知っている。昨日まで仲間だった奴が消えているなんて誰もが経験してきている。そして一歩都市国家から荒野にでればそこは戦場だ。気持ちの切り替えの上手い奴じゃないと生き残れない。みなそれぞれ気持ちの切り替え方を持っている。そしてハンターってのは個人のプライベートに他人が関わるのを皆嫌がっているのさ。プライベートについては互いに不干渉ってのが不文律だ」


 暗に俺のプレイベートなことを聞いてくるなと言っているリンドウの説明に言葉をなくすキャサリン。


「つまりハンターは皆それぞれのプライベートの過ごし方をしていてそれについては周囲のハンターも干渉しないってことですか?」


「そう言うことだ」

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