今日、わたしたちは卒業する。


 左胸に赤い花。卒業式まではまだ少し時間がある。わたしは廊下で黒崎くんと話していた。


「今日、どうする?」


「まっすぐ行くしかないよね…」


「頑張れば一回家帰れるけど」


 今日は卒業式が終わったら、微妙な時間に一件お仕事が入っていた。


「うーん、どうしようか…」


「あっ、ちぃっ!」


「!?」


 どこからか男性にしては高めの声がして、黒崎くんはすごい形相で辺りを見回す。


「いたいたー」


「家以外で呼ぶなっての!」


「まーいいじゃん。あ、ちぃの彼女? コイツ無愛想で可愛げないけど、よろしくねえ」


 黒崎くんを“ちぃ”と呼ぶ男性は、どこか女性らしさを感じる。目元が黒崎くんと似ている。


「すみません、わたし、彼女じゃないです…」


「バディだよ」


「ざんねーん。プライベートでも一緒になっちゃいなさいよ。僕は大歓迎よ!」


「うっさいな、くそカマ親父」


「く、くそ…!? ちぃ酷い! レミちゃんに言いつけてやる!」


 そう言うなり、ぴゅーっと元来た道を戻っていった。


「あ、あの…」


「今の父親なんだ。オカマバーで働いてる」


「オカマ…」


「で、レミちゃんてのが母親。よく離婚しないなと思う」


 わたしはなんだかすごいことを知ってしまったらしい。黒崎くんのお父さんが、オカマさんだったなんて…。


「まぁいいや。ホームルーム終わったら待ってるから、直で行こ」


「うん、わかった」


「これから楽になるんだか、大変になるんだか、さっぱりだ」


「学校ないのは楽だけど、時間がバラバラだもんね」


「うん」


「田沼くんは大学に行っても続けるのかな」


「……さぁ」


 各教室からぞろぞろと生徒が出てくる。整列時間のようだ。ということは、もうすぐで先生がやってくる。


「じゃ、また後で」


「うん、後でね」


 わたしたちは別れ、それぞれの列に加わった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る