なみだ、一筋


 わたしと田沼くんは、屋上前の階段にいる。屋上は立入禁止のため、誰も来ない。


 彼はゆっくり口を開く。


「昨日、アイツを見送ったんだ」


「うん」


「……一家無理心中で、…おじさんが。おじさんとおばさんには、死神がいなくてさ」


「そう、なんだ…」


 わたしはなにも言えなくなる。


「アイツ、最期に俺見て、ありがとうって…っ」


 一筋の涙が、彼の頬を伝う。


 見た目は怖いけど、本当は心優しい人。


「良かったら、ハンカチ使って?」


「さんきゅ…」


 泣いているところを見られたくないだろうと思い、わたしはその場を離れる。が、すぐさま腕を掴まれていまい、離れられなくなった。


 驚きのあまり、言葉が出ない。


ワリぃ。少し、ここにいて…」


「い、いいの…?」


「頼む」


 泣いているせいか、声が震えていた。


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