フードの彼女⑵


 屋上に出る。とても寒い。そんな中、境さんは雪の上に寝転がった。


「空気が…、澄んでいて気持ちいい…」


 中は消毒くさくて、と付け足す。


「病室に、姉がいるの…。たったひとりの、わたしの家族」


 刻一刻と、時は近づいてくる。彼女は静かに目を閉じた。なにも喋らず、ただ黙ってその時を待っているように思える。


 どれくらいそうしていただろう。ふいに、重いドアの音が響いた。


「ユリナっ!!」


「…お姉、ちゃん…」


「なにやってるのよ!? 早く、早く戻るよ!」


 お姉さんは、急いで妹を抱きかかえる。


 あぁ、もう、時間だ。


「ごめ、なさ…」


「!? ユリナ…? ねえ、ユリナってば…」


「…境ユリナ様」


 黒崎くんの呼び掛けに、彼女の魂が反応する。


「死神さん。わたし、死んだんですね」


「あなたの魂を、冥土へお送り致します。そちらの階段をご利用ください」


 そう言って、いつもの扉の向こう側、冥土へと続く階段を示す。


「わかりました。…お姉ちゃん、ごめんね」


 彼女は姉を抱きしめてから、わたしたちに礼を言って階段を上がっていった。扉は閉まり、スッと消えていく。


 今日の任務はこれで終了。あとは協会に戻り、報告書を書くだけ。


「お疲れ」


「…うん、お疲れ様」


 泣き続けるお姉さんを残し、わたしたちはその場をあとにした。


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