通夜


 お経。お線香とお花の匂い。すすり泣く声。目の前の奈々ちゃんは、笑顔で写っている。


「前、空いた」


「あ、うん」


 黒崎くんの一言で我に返り、前に進む。


 お焼香。


 奈々ちゃんに会えて良かったよ。ありがとう。と心の中で呟く。


 お母さんに軽く挨拶をして席に戻った。あとから黒崎くんが戻ってくる。


 ポンと頭にかかる重み。次いで、ポンポンとされた。きっとこれは、彼なりの励まし方なのだろう。チラッと見れば、困った顔でわたしを見ていた。


「無理して笑わなくていい…」


「…っう、」


 黒崎くんが言っていた通り、お通夜に来て急に実感が湧いてきた。泣くのは我慢しようと決めていたけど、できるわけもなく、声を押し殺して泣いた。


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