15時36分


 片付けが終わると、榊さんは外出した。もちろん、わたしたちも後をついて行く。


 わたしの心境は穏やかなものではない。今日は彼の “ その日 ” だ。


 黒崎くんはいつもと変わらずポーカーフェイスでいて冷静。なぜ人の死を前にして、冷静でいられるのだろう。


 余計なことを考えていると、また怒られてしまうから、考えるのをやめた。


「…柊」


「!」


「目を逸らさず、ちゃんと見ておけ」


「はい」


 時刻は15時30分。刻々とその時は近付いている。


 表情に出してはいけない。黒崎くんのように、ポーカーフェイスでいなければ。


 あと3分。人々が行き交うこの喧騒の中、ひとつの命が消えていく。


 榊さんは信号待ちをしている。心なしか、ソワソワしているようにも見える。


 信号が変わり、待っていた人たちが一斉に渡り始める。あと2分。


「!!」


 時間が止まったような気がした。


 向こうから歩いてきた、パーカーのフードを被った男性が、榊さんにぶつかったかと思うと、ニヤリと不気味な笑みを浮かべて離れていった。直後、榊さんは倒れ、周囲の人たちは悲鳴をあげ、逃げていく。


「榊さんっ!!」


 もう、1分もない。


「…っ、今日、だったんだ、な…っ」


 やっぱり冷静でなんていられない。わたしの目からは、涙が零れ落ちる。


「マキに…、会いたかっ……」


「榊…さん…」


「時間だ」


 黒崎くんが短く告げる。


 15時36分。ひとつの命が消えた。


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