サカモト マリア ⑵


 病室に向かう途中ですれ違う患者さんたちの中には、死相が出ている方がいた。もちろん、後ろには死神。病院では珍しくない。


「…顔」


「えっ?」


「顔、歪んでる。協会の奴らいるんだから、少しは気を付けろ」


「…ハイ」


 405号室。ここが、坂本さんの病室だ。


 中へ入ると、髪の長い人がベッドに横たわっていた。一定の速度で響く無機質な音が、彼女が生きていることを示している。


「…誰?」


 細くて、柔らかい声。


「…死神」


「その声…、千尋?」


「……」


「そっか、まりあ、死ぬんだね」


 ふたりは知り合いのようだ。


「隣の小さい子は? 千尋の後輩?」


「先輩で後輩」


「? そっか。千尋の扱い、大変でしょ?」


「えっ、いや、そんなことは…」


「ふふっ、千尋をよろしくね」


「あっ、はい…」


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