サカモト マリア ⑶


 坂本さんは一呼吸置いて、ゆっくりと話し始める。


 この病室にはベッドが4台あるけど、患者さんは彼女ただひとり。


「まりあね、千尋と一緒に死神を始めたの。千尋はすごい速さでAランクまで昇格しちゃって、協会の注目の的。まりあも負けたくなくて頑張ってた」


 黒崎くんはなにも言わない。表情が変わることもない。


「でも、そんな矢先に事故に遭って、辞めるしかなくなっちゃった」


 ニコニコしながら言う。


「そしたら今度は、病気で死んじゃうの。…まりあの人生、短かったな」


「……」


「…死神は、泣いちゃ、だめなんだよ?」


 わたしは、いつものように泣いていた。我慢していたのに、今回もだめだった。


「でも、あなたみたいな子が、来てくれてよかった。……千尋みたいなのが、ふたりもいたら、正直…、怖いもん…」


「でも…」


「ふふっ、ありがとう。これからも…、がんばって、ね…」


 終わりを告げる音が、虚しく響く。


「…坂本まりあ様」


 黒崎くんが呼びかけると、スゥッと彼女の魂が浮かび上がる。


「あなたの魂を冥土へお送り致します」


「…本当にお別れだね」


 坂本さんは笑顔を浮かべたまま、目の前に現れた扉を開ける。


「そちらの階段をご利用ください」


「自分がこれを使う時がくるなんて、考えてもみなかったな。千尋、後輩ちゃん、ありがとう。ばいばい!」


 冥土へ続く光の階段を、彼女は躊躇ためらうことなく上がっていく。


 扉がゆっくり閉まると、それは跡形もなく消えた。


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