警戒心は無意識に


 ホームルームを終え、教室を出る。


「黒崎くん、いつも…、!」


 いつもの場所に、いつもの体勢で黒崎くんがいると思えば、髪型が似ているだけの別人だった。途端に恥ずかしくなる。


「琴音?」


「! た、田沼くん…」


「なに突っ立ってんの?」


「あ、あぁ、うん。なんでもないよ! また明日ね!」


 そそくさと2組の前へ移動する。珍しく、まだホームルームをしていた。きっとクラスメイトがひとり、亡くなったからだろう。


 わたしは壁に寄りかかって、終わりを待つ。


「あの、柊さん」


「はい…?」


 ボーッとしていると、女の子5人のグループに話しかけられた。いつもわたしのことを、幽霊みたい、気味悪いとコソコソ言っているグループだ。


「そんな警戒しないでよ。変なことしないから」


 ひとりの女の子が苦笑いをして言う。


「ご、ごめんなさい。警戒したつもりはないんです…」


「ま、いいけど。そんなことより聞きたいことあるんだけど、いい?」


「あ、はい…」


「柊さんって秋斗のこと好きなの?」


「………へ?」


 多分、というよりも絶対に、変な顔をしている気がする。


「あの、今、なんて…?」


「秋斗が好きか聞いた」


「えっと…、田沼くんにそういった感情は持っていないですけど…。そもそも話すようになったのもつい先日のことですし…」


 女の子たちは、わたしの答えを聞いて笑い出す。わたしは至って真面目に答えたつもりだ。


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