禁忌


 大ホールには、既に多くの人が集まっていた。ステージからだいぶ離れたところに、わたしたちはいる。


『本日、午前4時45分に起きたことについて、協会長から直々にお話があります』


 アナウンスのあと、協会長──叔父はステージに上がった。


『本日、4時45分、Aランク死神の田沼冬樹は、対象者の死亡時刻を操作したとして…』


「田沼冬樹って…」


「この前の偉そうな男」


「そんなこと、するような人には見えなかったのに…」


「人はどこでどう変わるかわからない」


 対象者の死亡時刻を操作することは、禁忌とされている。禁忌を犯した者は、それ相応の処分が下される。


 そういえば、最近話すようになった男の子も、田沼だ。田沼秋斗。名前も、季節に共通している。


「柊、ちゃんと聞いておけ」


「は、はい!」


 わたしは考えごとをやめる。


『死神は、死の神と書くが、我々は神ではなく人間。まだ生きたいと願う人々や、親しい間柄の人、身内を見送ることになった時、死から助けたくなる気持ちもわかる。だが、我々の仕事は対象者の魂を狂いなく冥界へ送ることだ。いくら助けたくとも、その気持ちを抑え、仕事を全うしていただきたい』


 初めて聞いた、叔父の柔らかな声色。なんだか叔父ではないみたいだ。


「柊、行くぞ」


「うん」


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