なぜ…

 翌日、わたしたちは朝から榊さんの後ろを付きまとっていた。


 よほど気になるのか、時折こちらを振り返る。


 なんだかそれが可愛らしくて、口角が上がりそうになるのを必死で堪える。


「仕事中は無表情だと教えられなかったのか?」


 黒崎くんは前を見据えたまま言う。


「…ごめんなさい」


 どうして無表情でいなければならないの?


 そう聞いても、誰も答えてはくれない。代わりに、冷たい視線を向けるだけ。


 きっと、黒崎くんもそう。


 何年もこの仕事をしていて、気付いてはいる。だけど、無表情でいることがいつも正しいとは限らないとも思う。


「言いたいことあるなら言えば。…手短にな」


「どうして無表情じゃなきゃいけないの?」


「……」


 面と向かっていたら、冷たい視線を向けられていたことだろう。


「逆に表情を出すのは、なぜだ?」


「えっ、と…」


 質問で返され、少し慌てる。


「ゆっくりでいい」


「…わたしは…、表情を隠すことが苦手だから。でも一番の理由は “その時” 一緒にいるのは、わたしたちでしょ? 無表情でいられたら怖いと思うし、安心してこの世界とお別れしてほしいからなの」


「ふーん」


 沈黙。


 わたしは黒崎くんの言葉を待ってみる。


「…対象者に死期を悟られないようにするためだ。当日ならまだしも、今回のように期間付きの場合は苦手だろうとなんだろうと、表情は隠さなくちゃならない」


「うん…」


 榊さんは目的地に着いたのか、辺りを見てから建物の中へ入っていく。


 彼が入っていったのは、アクセサリーショップ。わたしたちも遅れて店内へ入った。

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