悲しい報せ


 学校に着いて時計を見ると、8時35分。いつもより遅いが、走ったおかげでなんとか間に合った。


 教室内は雰囲気が重い。理由はわかっている。田沼くんは来ていない。


 登校終了時間の鐘が鳴った。10分後の次の鐘で、先生は来る。


「集会あるのかな?」


「さぁ」


「アイツ、いい奴だったのにな」


 いつもなら昨日のテレビの話や、授業や宿題の話が、今日は田沼くんの友達の話でいっぱいだ。


 泣いている女の子もいる。


「でもさ、…一番辛いのは秋斗だよね」


「そうだな…」


 鐘が鳴る少し前。珍しく先生が早く来た。目が赤く腫れている。


「みんな聞いて。…この様子だと、知っているみたいね」


「フジコちゃん…」


 わたしのクラスの担任は、阿部 フジコという人で、生徒のほとんどはフジコちゃんと呼んでいる。


 某アニメのキャラクターとは違い、少し幼さが残る顔立ちに、小柄で華奢な体つき。よく比べられるために、名前が好きじゃないと言っていた。


「昨夜、2組の田中くんが自宅で亡くなったそうです…」


 どうしてかは言わなかった。というよりも、泣いて言えなかったのだろう。


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