フードの彼女⑴


 203号室。病室を確認して、中に入ろうとした時。


「!!」


 スーッと静かにドアが開いて、人が出てきた。わたしたちは気にせず中に入る。


 今回の対象者である、境ユリナさんのベッドは、左側の手前。カーテンの隙間から覗き、彼女の様子を見てみる。


「追うぞ」


「はい!」


 そこに彼女の姿はなく、ベッドの傍らに、別の女性が椅子に座って眠りについていた。


 パーカーのフードを目深に被り、俯いていたせいで顔がよく見えなかったけど、おそらく境さんは、わたしたちと入れ違いに病室を出ていった人。わたしたちは慌てて彼女を追いかける。


「すぐ追いつけるだろうけど」


「あっ、黒崎くん、こっち!」


 エレベーターの前。パーカーのフードをかぶった人がいる。


 どこへ行くつもりなんだろう。


 そっと近付く。彼女は待っているあいだ、微動だにしない。やがてエレベーターが到着し、わたしたち3人はそれに乗り込む。


 10のボタンが点灯する。最上階だ。


「…あなたたちは、死神さんですか」


 彼女はこちらを向かずに問い掛ける。


「祖父が今際の時、黒装束の二人組がいる、死神だと言っていました。…わたしの目にも、あの時には見えなかった、黒装束の二人組が見えます。ということは、わたしは死ぬんですね」


 わたしたちは沈黙を守る。


 そうしていると、チンッと高い音が鳴り、エレベーターのドアが開いた。10階に着いたようだ。


「最期に、外に出たかったんです」


 そう言ってエレベーターを降りていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る