ミヤタ ナナ⑶


 今日、奈々ちゃんはほとんど目を覚まさなかった。夕方に一度だけ目を覚まし、お母さんと少し会話をすると、またすぐ眠ってしまったのだ。


 日付が変わる、少し前。2度目の容態急変。泣き喚くお母さんを、看護師さんが落ち着かせようと宥めている。


「柊」


「…っ」


 奈々ちゃんの魂が、起き上がっていた。


「あたし、もう無理みたい」


「そ、んなこと、」


「わかるんだよ、なんとなく。…琴音」


 彼女は困ったような顔をして、わたしの名を呼ぶ。


「そんな顔してたら、昇格なんてできないよ」


「だって…」


「…あたしとアンタが初めて会ったのは中2の時。あたしが死神を始めた時」


 懐かしい。今でも鮮明に憶えている。


「あたしより経験長いクセに落ちこぼれのアンタを見ていて、正直最初はイライラしてた。すぐ泣くし、オドオドしてるし。そんなんだから昇格できないんだよって」


 彼女は続ける。


「でも、バディになって日が経つにつれて、本当は頑張り屋さんなんだって思い始めた。…泣く前に、唇噛んで一生懸命我慢してること、気付いたから」


「…今でもやってる」


「!?」


「ずっと思ってたけど、血出るからやめなよ。それと、普段はちゃんと笑ってなよ。学校にいる時のアンタ、本当に暗かった。…仕事上、表情なんてなくなりそうだけどさ」


 ケラケラと笑う。だけど、弱々しい。


「…琴音」


 わたしは涙を必死に堪える。…唇を噛まずに。


「あたしが越えられなかったBランクの壁越えて、絶対Aランクに昇格しなさいよ? せっかくBランクまで昇格したのに、降格でもしたら、許さないから」


 お医者さんの手が止まる。


「…それと、琴音がバディで、本当に良かった」


 無機質な機械音が虚しく響き渡り、わたしと黒崎くんの後ろには、扉が現れる。


「…宮田奈々様」


「うん、じゃあ、ね」


「うん、またね…」


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