タコさんウインナー


「…笑ってなよ」


「えっ?」


「ちゃんと笑えるんだから、学校にいる時くらい、笑ってなって。仕事でなんか笑えないんだからさ」


 真剣だけど、どこか優しさを感じる表情。


 なんだか心が暖かくなる。本当に黒崎くんは不思議な人だ。


「…でも、面白いこととか、楽しいことないと、笑えないよ」


「……。見つければいい」


「黒崎くんらしい答え…」


「ありがとう」


「う、うん」


 わたしは黙々とお弁当を食べる。卵焼きを食べた黒崎くんは、いつもさっさと教室に戻っていくのに、なぜか今日は戻らない。不思議に思っていると、不意に目が合った。


「なに?」


「あ、ううん、なんでもない」


「ふーん」


 今日はどんな人を送るんだろう。


 わたしは食べながら、仕事のことを考え始める。学校にいるほとんどの時間は、仕事のことを考えていることが多い気がする。


「食べるの遅…」


「あっ」


 黒崎くんは、ひとつ残っていたタコさんウインナーを取っていた。


「ごちそうさま」


「うぅ…」


 空になったお弁当箱を片付ける。


 わたしが片付け終わったことを確認した黒崎くんは、「話があるから」と言って席を立ち、教室を出てしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る