優しさ


 卒業式練習2日目。今日は倒れないようにと、昨日は早く寝た。


 昨日教室に戻ると、冷たい視線を向けられた。田沼くんはそれからわたしを隠すように歩く。


「あ…、ありがとう」


 小さくお礼を言うと、返事の代わりに頭をポンポンとする。これは黒崎くんがよくしてくれるやつだ。


 席に着くと、コソコソと話す声が聞こえる。


「ぶっ倒れるとか超恥ず!」


「絶対ヤダ〜!」


 くすくす笑う声も聞こえる。わたしはただ黙って下を向いていた。


「──琴音っ!」


「!」


「はよ。ボーッとしてたぞ?」


「お、おはよ。少し考え事してて」


 田沼くんに声を掛けられて我に返ると、上靴に履き替えている途中だった。


「昨日のことだったら、あんま気にすんなよ? 琴音は悪くないって!」


「うーん…」


「まっ、気にすんな!」


 頰を突く。


「あう」


「ほら、教室行こうぜ!」


 練習が終わったらホームルームがあって、卒業アルバムが配られる。帰りの荷物は重いだろうな。


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