手向け
やって来たのは、小さなお花屋さん。黒崎くんは真剣にお花を選んでいる。
「榊さんへ…?」
「本当はダメなんだけどな」
「…半分、出させてくれる?」
「好きにしなよ」
わたしたちは小さな花束を買って、お店を出た。ここから事件現場までは、そう遠くはない。
「…本来、僕らの姿は12時間を切らないと見えない」
「でも…」
「霊感」
「えっ?」
「アイツは霊感を持ってたんだろうな」
だから最初から、わたしたちが見えていたのかと納得する。
話している間に、あの時、榊さんが待っていた信号まで来た。
「…向こう側に近かったっけ」
「…うん。もう少しで、渡りきるかなってくらいだったよ」
「じゃあ渡るか。もうすぐで青だし」
不意に、犯人のあの笑みが浮かぶ。不気味で、とても恐ろしかった。
「おい、青だぞ」
「あっ」
いつの間にか、信号は変わっていたらしい。
「捕まってるんだから大丈夫だって」
「そう、だね。…でも、あの時の笑みを思い出すとどうしても、ね…」
「仕方ないよ。…さすがにアレは僕でさえ怖かった」
と言いつつ、表情は変わらない。本当に怖かったのかと、疑問が湧いてくる。
横断歩道を渡りきる。信号機の周りには、既に花束がふたつ置かれていた。
「誰か来たんだね」
「あぁ」
わたしたちも花束を置き、手を合わせる。
「…さ、仕事向かうぞ」
「もう殺人は嫌だな…」
「そうだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます