表情


 銀色のバッジ。それは、Bランクである証。わたしはまた昇格することができた。手の中で、バッジが輝いている。


「おめでとう」


「ありがとう。黒崎くんのおかげだよ!」


「あと1ヶ月。まぁ余裕だな」


 黒崎くんは笑った。


 今日は土曜日。協会の中でリスト整理の日。一日中、膨大な量のリストに囲まれて過ごすのだ。


 わたしたちの担当場である、第3資料室に向かう途中で、田沼くんに会う。


「あ、おはよう」


「はよ。リスト整理?」


「うん。田沼くんも?」


「そ。多過ぎんだよなー…」


 そう言う田沼くんは哀しげ。きっと、笑いながら言う人なんて、いないと思うけれど。


「あ、そうだ。黒崎さん、休憩入ったら、勉強見てもらえますか?」


 目を輝かせて言う彼に、黒崎くんは露骨に嫌な顔をした。わたしは驚きのあまり、目を見開く。


 田沼くんは、さほど気にしていない様子。わたしはそれにも驚いた。


「……はぁ。柊、月曜日、卵焼きね」


「へっ!? あ、うん」


「じゃあ、またあとで!」


 田沼くんは笑顔で去っていく。わたしたちは担当場に向かった。


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