自殺⑵


 アパートの一室。電気は点いておらず、カーテンも閉まっているため薄暗い。


 そんな薄暗い部屋の中で、小さなテーブルに向かい、なにやら手を動かしている男性がひとり。わたしたちには気付いていないようだ。


「はぁ」


 大きなため息をひとつ。


 手を動かしながら、なにかブツブツと呟いているけど、なにを呟いているのかは聞き取れない。


 これからしようとしていることは、悩みに悩んでの結果なのか…。


「…誰」


 ようやく気付いたのか、こちらを向いている。


 光のない瞳。例えるなら死んだ魚のよう。


「死神だ」


「あっそ」


 興味がないらしい。わたしたちを目にかけず、台所に向かった。


 またひとつ、大きなため息が聞こえる。


「なんで俺なんだ…」


 見ると、男性の肩が小刻みに震えていた。


 わたしはふと、あの人がテーブルに向かって手を動かしていたことが気になり、彼を気に掛けながらテーブルに近付く。


「柊」


 呼ばれて振り向くと、黒崎くんは時計を指差していた。あと1分。時計の秒針の音が、やけに耳につく。


「っ、! ゴホッ、ゴホゴホッ」


 喉元を押さえて、激しく咳込み、もがき苦しむ。彼とその周りが、赤に染まり、やがては動かなくなってしまった。


 わたしたちの背後には扉が現れる。



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