一章

対象者

 今回の対象者は大学1年生の男性。さかき 将太しょうたというらしい。


 彼の部屋には、勉強道具がたくさんある。


 わたしは机の上の、あるものに目がつく。


「これ…」


「妹じゃない」


 幼少期の写真。幸せそうに笑っている男の子と、女の子が写っていた。


「いいな、兄妹…」


 ちょうどその時、廊下から足音が聞こえてきた。わたしは慌てて写真立てを元の位置に戻し、部屋の隅に移動した。


「僕の足さえ引っ張らなければそれでいいから」


「はい…」


 部屋に入ってきたのは、背の高い男性。彼が今回の対象者・榊 将太さんだ。


「…お前ら…、誰だよ…」


 開口一番に、そう言う。


「えっと、」


「お前の魂を送る死神」


 わたしも榊さんも、目が点になる。


 チラッと黒崎くんを見てみる。無表情だ。


「…バカにしてんのか? んなもん、いるわけねぇだろ」


「信じる信じないは自由だ」


「警察呼ぶぞ」


「どうぞ」


 わたしは内心ヒヤヒヤしていた。こんなことは日常茶飯事なのに、慣れることができない。


 男2人はしばらく睨み合ったのち、榊さんが踵を返して部屋を出て行った。


「く、黒崎くん、警察呼ばれちゃうよ!」


 慌てるわたしとは対照的に、黒崎くんは落ち着いている。


 さすがAランク…。


 関心していると、2種類の足音が聞こえてきた。


 ひとつは先程と同じ、ドタドタという音。そしてもうひとつは、パタパタという軽いスリッパの音。


 わたしは、ん?と首を傾げる。


「ほら見てくれよ!」


 榊さんは部屋に入るなり、わたしたちを指差して、廊下にいる人物に声を掛ける。


 姿を現したのは、エプロンをした小柄な女性。恐らくは彼のお母さんだろう。


 彼女にはなにも見えていないようで、怪訝けげんな顔をしている。


「母さん嘘だろ!? あそこに全身真っ黒の男と女、見えるだろ!?」


「なにもいないわよ。アンタ、大丈夫?」


「ハァ!?」


 お母さんに、わたしたちの姿が見えなくて当然。


 だって…。


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