柊家


 黒崎くんに家まで送ってもらい帰宅する。


 玄関ですぐに異変に気付いた。いつもはないはずの革靴が一足。わたしは恐る恐るリビングへ向かう。


「た、ただいま帰りました…」


「…あぁ」


 わたしを見ることなく返事をする。


 部屋に行こうと踵を返すと、


「お前はいつになったら昇格するんだ?」


 と言われた。わたしが答える間もなく、叔父は続ける。


「まったく…。私に恥をかかせないでくれ。兄だけで十分だ」


「…すみません…」


 それだけ言うと、わたしはそそくさとリビングを後にした。


 柊の家は代々死神をやっているらしく、わたしの父と叔父も、死神となった。父は落ちこぼれなのに対し、叔父はSランクの秀才で協会長。


 叔父はプライドが高く、代々名のある柊家に生まれたことを誇りに思っている。だから、名家に生まれたのに落ちこぼれな父とわたしを恥だと言い、毛嫌うのだ。


 わたしは自分なりに、柊の名に恥じぬよう努力はしているつもりだし、きっと父もそうしていたはずだ。わたしを悪く言うのは構わないけど、父を悪く言うのだけは、やめてほしいと思う。


 父はもう、この世にいないのだから。


 わたしが10歳の時、買い物に出掛けた両親は事故に巻き込まれ、帰らぬ人となった。今でもその日のことを鮮明に覚えている。


 両親のお葬式で、ずっと泣いていたわたしに、叔母は「今日からわたしたちが琴音ちゃんの両親よ」なんて言ってくれていた。それを聞いた叔父は、蔑んだ目をして、「面倒事を残して逝きやがって」と呟いていた。


 あの日から、叔父がわたしを見る目は変わっていない。


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