意外な事実


 協会に戻って報告書を書き、リスト受けを確認した後、わたしたちはようやく帰路につく。


「…柊さ、鈍臭過ぎ」


「えっ?」


「なんでなにもないところで転ぶんだよ。しかも急いでる時に」


 黒崎くんは呆れた顔をする。


「あ、あれは、石につまずいて…」


「今日」


「?」


「よく泣かなかったな」


「…あ…」


 少し柔らかな笑み。初めて見る。


「黒崎くんの期待に、応えたいから…」


「ふっ、やるじゃん」


 軽く笑った。


 …今なら聞ける。きっと、答えてくれる。


「さ、さっきの男の人、知り合い?」


「…あぁ、アイツね。田沼たぬま 冬樹ふゆきっていって、最近Aランクに上がったくせに偉そうにしてくるムカつく奴。僕より仕事できないのに年上だからって見下しやがって…」


「そう、なんだ…」


 黒崎くんは相当、田沼さんが嫌いな様子。思わず苦笑いすると、軽く睨まれた。


「明日、卵焼きね」


「…黒崎くんって、卵焼き好きだよね」


「………別に」


「え、なに、今の間…」


「なんでもない」


 わたしたちは普段より話をしながら帰った。


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