末路


 5時間目が終わると、田沼くんに呼び出され、教室前の廊下にいる。


「柊さんさ、死神でしょ」


 単刀直入に言われ、言葉に詰まる。


「この前、協会の廊下で嬉しそうに歩いてくの見かけたんだよ」


「えっ」


「ま、俺も死神なんだわ」


 田沼くんは悲しそうな顔をして言う。


「しかも今、仕事中。柊さんも俺のバディ見たと思うけどさ。…協会の奴らって残酷だよな」


「田沼くん…」


「ま、兄貴がやらかしたせいもあるんだけどな」


「冬樹さん…?」


「そ。恋人の時間をいじった」


「……」


「柊さんか悲しむことじゃないよ」


 田沼くんは悲しそうに笑った。


「…田沼くん。聞いちゃダメかもしれないけど…」


「解雇されて、死神の記憶も消された。今は抜け殻みたいになってる」


 禁忌を犯した者の末路。記憶を消すとは残酷過ぎる。そう思うのは、わたしが甘いだけなのだろうか。


「ま、俺はそんなヘマしねーけどな」


「そっ、か…」


「…そんな顔、させたかったわけじゃねぇんだけどな…。余計なこと話してごめん」


 そう言って、悲しそうに笑う。


「ううん。田沼くん、ひとりで抱えて辛かったよね。話してくれて、ありがとう」


「……」


 田沼くんは片手で顔を覆い、俯いてしまった。ひとしずく、ポタッと床に落ちる。


「ごめ…、見ないで…。俺、情けねーな…。男のクセに泣くとか」


「関係ない。辛かったら、男の子だって泣いていいんだよ」


 わたしは制服のポケットからハンカチを出す。


「良かったら、これ使って?」


「さんきゅ…」


「じゃあ…、先に中入るね」


「ん」


 田沼くんを残し、教室に入る。


 お兄さんが処分を受けて、自分の友人を送ることになって、それをひとりで抱えていたなんてすごく辛かったと思う。


 わたしに話してくれたことで、少しでも彼の心が軽くなっていたら嬉しいな。


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