現れ


 目を覚ますと朝で、なぜかベッドにいた。部屋には誰もいない。


 起きたてのはっきりしない頭で、思考を巡らせる。


 黒崎くんが仮眠から起きて、わたしが寝かされて…。


「起きたの?」


「榊さん…。ベッドお借りしてごめんなさい」


 部屋のドアが開いて榊さんが入ってきた。もちろん後ろには黒崎くんがついている。


「いいよ。プレゼント選び、手伝ってくれた礼」


「すみません、ありがとうございま…す…」


 この時わたしは気付いてしまった。彼に、死相が出ていることに。


「柊」


「っ、はい」


 黒崎くんの冷たい視線。まるで、表情に出すなと言われているよう。わたしは俯いた。


 黒崎くんに迷惑は掛けられない。頑張って今まで通りにしていなくちゃ。


「…あ」


 榊さんの声に、顔を上げる。


 どうやら片付けていた引き出しの中から、懐かしいものが出てきたようだ。彼はそれを机の上に置いて、一つ下の引き出しを片付け始めた。


 机の上に置かれたのは、黒ずんでいるうさぎのマスコットキーホルダー。榊さんが使っていたとは考えにくい、可愛らしいものである。


 片付けは進み、終わる頃にはお昼を回っていた。


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