黒い者


「黒崎くん?」


 教室の手前で、黒崎くんに会う。


「どうしたの?」


「…卵焼き、もらいに行ったらいなかった」


「あ、ごめんね。授業終わるの遅くなっちゃって。体育だったの」


「ふーん」


 黒崎くんはわたしについて来る。なんだか可愛い。


 教室に入り、すぐに違和感を感じた。黒いのがいる。その姿を視界に捉えていないのに、なぜかそう思った。


 バッグにジャージをしまい、お弁当箱を出す。


「…黒崎くん、あのね、気のせいだとは思うんだけど、実は今朝からずっと誰かに見られてる気がするの」


「だって…、柊の後ろにいるからね」


「!?」


 慌てて後ろを見ると、黒い者がいた。──死神。怖い顔でわたしを見ている。


「く…、黒崎くん…」


「そんな顔するな。少し考えたらわかることだ」


 …この中の誰かが。


 頭の中が真っ白になる。


「…僕たちには関係のないことだ」


「そんなことない。いなくなっちゃうんだよ?」


「けど、友達じゃないだろ。関係ない」


「……」


 黒崎くんは冷たい。彼の考え方が理解できなかった。


「田沼、購買行こーぜー!」


「おー」


 わたしの後ろを、田沼くんと、もうひとりの男の子が通りすぎる。死神は、ふたりのあとをついて行く。ということは、あのふたりのどちらかが…。


「そんな顔しても変えられない。結果を受け入れるしかないんだよ」


「うん、わかってる。わかってるんだけど…」


 このなんとも言えない気持ちはなくならない。


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