間に合わなかった約束


「柊」


「……」


「…琴音」


「……」


 数週間ぶりに見た彼女は、まさに生きる屍のよう。


 髪はボサボサで、顔色が悪い。食べていないのか、前よりも痩せた気がする。そして瞳には生気がない。少しだけ、怖いと思った。


 柊が僕に夢の話をしてくれた2週間後、副協会長は急逝した。通夜、葬儀、告別式があり、ひと息つく間も無く仕事に追われ、ようやく休みが取れたのは1週間半後の今日。


 様子を見に行こうかと悩んでいた矢先、協会長から直々に自宅の鍵を渡され、様子を見て来てほしいと頼まれたのだ。


「琴音、とりあえずなにか食べないと」


「……い」


「ん?」


「…要らない」


 消え入りそうな声。


 僕はどうしたらいい? なにができる? そう思ったら勝手に体が動いて、柊を抱きしめていた。


「ご飯食べよう。少しだけでもいいから」


「…間に合わなかった」


「え?」


 意識して耳を傾けていないと、聞き逃すほど小さい。


「昇格と、…恋人を紹介すること。叔母さま、すごく楽しみにしていたのに、できなかった…」


「恋人は…、それはもう運としか言いようがないね。けど昇格の件は僕の力量不足でもあるから…。本当にごめん」


「黒崎くんは、悪くないよ…」


 抱きしめる腕に、少し力が入った。


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