静かな怒り

 榊さんは先程から、わたしたちに向かって怒鳴り散らしている。


 彼のお母さんは彼をなだめ、黒崎くんは黙って聞き流している。


「…ふぁ…」


 あくびが出そうになり、わたしは慌てて口を塞いだ。


 驚いたのか、榊さんは静かになった。


 貫通しそうなほど突き刺さる視線に、恐る恐るそちらを見ると、かなり怒っている黒崎くん。


 当たり前だ。


「ご、ごめんなさ」


「この仕事舐めてんの?」


 今までに聞いたことのないくらい低い声で遮られる。もともと男性が苦手なことも手伝い、とても恐ろしく感じた。


「この仕事は、死者の魂が無事冥界へ行けるようにきっちり送らなければならない重要な仕事だ。一瞬たりとも気を抜けない。そのはずがなぜあくびなんかしてる?仕事に集中してない証拠だ。お前がいつまで経っても昇格できない理由はそこなんじゃないのか?中途半端な気持ちでやるくらいなら、いない方がマシだ」


 上から目線。決めつけた口調。


 黒崎くんはランクも歳も上だし、彼の言っていることに間違いはない。


「なんだその目?言いたいことあんなら、黙ってないで言えよ」


「………い」


「は?」


「っ、わたしは好きで死神になったんじゃない!!」


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